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「はらっぱ」 No.29 学校への資料提供

更新日:2024年2月21日


「はらっぱ」 No.29 学校への資料提供

掲載日:2016年3月31日更新

和歌山大学附属図書館 学術情報課 課長補佐 (元熊取町立図書館長)  藤井亜希子

 みなさんの図書館で、学齢期の子どもの年間有効貸出率はどれくらいでしょうか。私が19年間勤務していた熊取町の最新統計をみると、小学生で53%、中学生で25.9%でした。小学生で約半数、中学生では4分の3の子どもたちが、1年間で1度も図書館を利用していない(正確には本を借りていない)ことになります。小さな町とはいえ、約17平方キロメートルの範囲に図書館は一つだけ、自転車で30分以上かかる距離では、日常的に本に親しめる環境があるとはいえません。“すべての子どもが本に親しめる”ようにするために、学校図書館の存在は、欠かすことができないものなのです。
 平成13年に策定された子どもの読書活動の推進に関する法律(以下「子ども読書活動推進法」)では、すべての子どもが本に親しめる環境整備を計画し、実施することが、地方公共団体の責務として定められました。市町村立図書館(以下「図書館」)は、赤ちゃんからお年寄りまで、全ての住民に開かれた施設ではありますが、利用を受け入れているからといって、一人ひとりの読書環境が保障されるわけではありません。物理的距離、家庭の様々な状況等により、図書館を利用するのが難しい子どもたちがいます。そんな子どもたちを含めて、すべての子どもがその年齢に応じて、実際に、身近な場所で本に親しめるような仕組みを作ることこそが、図書館の役割だと考えてきました。学校図書館との連携・支援もその一つです。

学校図書館の可能性と公立図書館の支援

 私自身の学校図書館への思いは、実は遥か昔、大学生の頃に遡ります。石井桃子さんが書かれた『子どもの図書館』に深く感動したのですが、その中には、「いまの場合、学校図書館のことは、考えないことにします。」と書かれていました。もちろん、その理由もきちんと示されてはいますが、子どもにとって一番身近な場所だと考えていた私はそのことがとても残念だったので、学校図書館を卒業論文のテーマとして調べ始めました。当時、箕面市で学校司書の配置をはじめたところでしたが、有難いことに長期見学を許可いただき、1日中、学校司書さんにくっついて動く日々を2週間ほど過ごす機会を得ました。そこでは、子どもたちが、授業だけでなく、休み時間におすすめの本を聞いたり、外でサッカーをしている途中でルールに関する本を調べに来たり、のびのびと自然な形で本を使っている姿がありました。自分の子どもの時とは違う魅力的な学校図書館、それをしっかり支える学校司書の姿がそこにはあったのです。
 その後卒業して図書館で働くようになりましたが、今度は、豊中市の岡町図書館で、公立図書館から学校図書館をどう支援するのかを学ばせてもらいました。団体貸出用の資料が置かれた使いやすい空間、利用される場所に図書館資料を運ぶという職員の方の熱心な姿勢に、大きな衝撃を受けました。このような、先進的で活発な取組みから学べたことが、熊取町の活動に繋がったのです。

子ども読書活動推進法の成立

 そうはいっても、学校図書館との連携は、なかなか図書館が思うようには進みませんでした。私たちの思いが空回りすることも多く、学校司書が配置された後も、もどかしさが募るばかりでした。そんな頃に、新たに策定された子ども読書活動推進法は、町全体として計画を定めることを求めており、連携を推進する大きな力になったと思います。読書を法律で規定することに反対意見もありましたが、少なくとも私たちにとっては、図書館としてだけでなく、町の読書環境を整備する立場から学校に関わることができるようになったという点で、とても大きな意義があったと思います。計画の策定過程では、保育所から中学校までを全て直接訪問し、現状を確認することで、子どもたちの読書環境を実際に目にすることができ、また様々な人との繋がりも生まれました。これらのことは、「計画策定」という理由がなくては、実現しなかったと思います。また、図書館規則を改正し、図書館が実施する事業に「子ども読書活動の推進」を追加することによって、その活動を中心として担う図書館の立場も明確にすることができました。

日常的な資料提供

 熊取町では、学校司書の配置にあわせ、団体貸出を始めていきました。学校司書が配置されている場合、学校司書が子どもたちの読書要求を捉え、図書館に資料を依頼してくれるので、基本的な資料提供についての図書館の役割は、予約システムや配送などの条件面を整えていくことになります。週4日連絡便があり、1~2日で提供できるようになっていました。レファレンスや貸出依頼のあった本から、こんな分野に興味を持っているんだということが分かったり、「今、3年生にこのシリーズが流行っているんですよ」といった話を学校司書から聞くのもとても嬉しいことでした。平日訪れるのが難しい図書館と違い、子どもたちが長い時間を過ごす学校こそ、児童サービスの最前線です。図書館の本を図書館で借りようと、学校図書館で借りようと、子どもたちにとっては同じことで、場所は問題ではありません。
 もし、このような学校司書が配置されていない場合には、学校への資料提供は、全く違った形になるでしょう。制度として団体貸出サービスがあったとしても、専任の職員がいない場合、利用はごく一部の熱心な教員に限られがちです。保育所や幼稚園に対しては、季節ごとに図書館から配達する絵本のセット貸出や、多様な本に出会ってもらえるよう、「えほんのひろば」(加藤啓子さん考案)の出前をしていました。学校に対しても、学年別のおすすめ読み物や、授業テーマに合わせたセットを作り、あわせて司書がブックトークを行う図書館もあるようです。学校への資料提供は、単なる相互貸借や団体貸出といった制度としてだけでなく、子どもが多様な本に出会う機会を作るための一つの手段として、考えられるべきだと思います。

資料提供の幅を広げる

 私たち図書館員が、直接子どもたちに本を手渡す機会として、「ミニブックトーク&紹介した本の配達」をはじめました。小学校3年生がやってくる図書館見学の機会を利用して、クラスごとに 15分程度のミニブックトークを行い、紹介した3~5冊の本を午後の連絡便で送ります。3クラスあれば、シリーズも含めて20冊程度を学校図書館で展示・貸出してもらうことができました。これは、おすすめの本を紹介できること、また読みたい本が学校図書館になくても、図書館から届けられるということを実際に感じてもらえたらと願って始めた試みでした。小さな試みではありますが、町内の全小学生が訪問してくれる図書館見学は、ほぼ全ての子どもに出会える大きなチャンスです。
 また、熊取町では、熊取文庫連絡協議会のメンバーが、「おはなしキャラバン」として、すべての学校に出向き、おはなしを届ける活動を長く続けています。その際に紹介する図書館の本は、一定期間教室に置くようにすることで、子どもたちが本に出会えるチャンスを広げてくれていました。

学校図書館の資料充実-選書と除籍

 読書環境としての学校図書館を考えた場合、学校図書館自体の資料をどう充実していくかということも大きな課題です。学校図書館では、その規模に応じて、「学校図書館図書標準」という蔵書冊数の基準が定められています。これが曲者で、長年の積み重ねのまま手を入れていないために、実際に使える本は少ないのに、基準を満たしている場合がよく見受けられます。熊取町の学校の場合も、除籍が難しい状態が続いており、書架には本がぎっしり詰まり、内容が古すぎて使えない本などが倉庫に積み重なっている状態でした。このような状態では、利用しにくいのはもちろんのこと、予算要求も難しくなります。そこで、図書館が支援して、5年間で全8校の除籍を実施しました。手順としては、まず「第2次子ども読書推進計画」に除籍の必要性を盛り込み、教育委員会で学校図書館の共通選書基準・除籍基準を決定(図書館が作成に協力し、提案は学校教育課)、学校指導主事と相談しながら、支援する学校の順番や方法を決めていくといったものです。実際の除籍選定・廃棄作業の時は、学校図書館で作業する職員も図書館に残る職員も大変でしたが、使いやすくなった図書館を喜んでくれる子どもたちの声が励みでした。
 この除籍によって、ようやく資料の実態を数値化することができるようになり、予算要求の根拠を作ってもらうことができました。なぜ図書館でそこまでするのか?と言われることもありましたし、全ての自治体で必要なことだとは思いませんが、子どもたちの読書環境を充実したいと思い、それを阻害する要因を解決できるようにと考えた結果、熊取町では除籍支援が必要だということに気付いたのです。
 学校司書に対する日常的な選書の支援としては、月1回の研修にあわせて、図書館が購入した児童書全てを見てもらうようにしていました。学校司書が配置されると、選書も全面的に任される場合が多くあります。見計らい図書もなく、選書のツールも十分ない中で、本を選定するのは簡単なことではありません。学校司書どうしで情報交換したり、本を評価することで、選書の参考にすることができます。このような機会を図書館が提供することも、学校図書館の資料充実を側面的に支援することになります。

子どもと本について学ぶ

 ずいぶん前ですが、見学に訪れたある小学校で、先生が一人の子が読んでいた本を取り上げ、「みなさん、見てください。○○君は、もう5年生なのにこんなに字の大きな本を読んでいます」と本を掲げて言ったことがありました。その時の、その男の子の表情は今も忘れられません。私は、学校と関わる中で、石井さんが学校図書館を今は「考えないこと」にする理由として書かれていた、「子どもの自由な精神活動」という言葉を、その後、幾度も思い出すことになりました。学校でのいわゆる読書指導は、ページ数を競うものであったり、図書館員からすると不思議な方向に展開する場合があります。そんな時に、やっぱり学校は・・・といってしまうのは簡単ですが、それでは何も変わりません。熊取町では、学校の先生との連絡会のなかで、講師を招いた研修を行い、ともに学ぶ機会を設けてきました。子どもの読書の問題は、とても奥深く、図書館員も自戒をこめ、ずっと考え続けていかなければならないことです。けれども、子どもの読書環境を考えた場合、自分たちだけで考えるのではなく、子どもと関わる大人-保育所・幼稚園・学校の先生や親、地域で子育てに関わるすべての人-と共に考えていく必要があると思います。
 学校への資料提供によって、子どもたちにどのような形で本を届けることができるのか、考えるべきことはつきません。
 私は、現在、大学図書館で働いています。新入生向けの図書館ツアーを担当してみて、彼らのこれまでの図書館利用に大変に大きな差があることを実感しました。「分類番号」というものについて、あるいは図書館が本をその内容により分類し並べているということ自体について、全く聞いたことがないという学生がいます。その割合は、私の想像を遥かに超えていました。そうかと思えば、先進的な活動で知られる高校出身の学生からは、蔵書構成や更新度についての鋭い指摘があったりします。学校図書館の体制や資料の不備は簡単には解消されませんが、市町村立図書館の働きによって、一人でも多くの子どもに、図書館サービスを届けることができるよう願っていますし、私自身も、大学図書館だからこそできることを追求しながら、日々取り組んでいきたいと思います。

参考文献
石井桃子『石井桃子集5』岩波書店 1999.2


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