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「はらっぱ」 No.28 すべての子どもはクローディア―子どものレファレンスを考える―

更新日:2024年2月21日


「はらっぱ」 No.28 すべての子どもはクローディア―子どものレファレンスを考える―

掲載日:2015年3月31日更新

元東京都立図書館職員 杉山きく子

1.はじめに 

 10代が「気になる話題」を取り上げ、高校生の視点で調査する情報番組「Rの法則」(NHK  Eテレ)をご存じだろうか。2014年9月4日には「図書館で自分磨き!」と題してレファレンスを取り上げている。スタジオでは高校生たちが集まり、仲間の3人が大学の図書館で司書のレファレンスを受けて、質問の回答を得るまでのビデオを観ている。「おなかがすいたときにぐぅーと鳴ってしまうのを防ぐには?」という質問に、蔵書検索にいきなり「おなか ぐーぐー」と入れた高校生に、司書が「もっと固い言葉を入れるように」と注意すると、スタジオの高校生から「へえー」と驚きの声が上がる。調査するうちに面白い本を発見したり、ずらりと並んだ閉架書庫が映ったり、図書館の魅力と威力をたっぷり伝える番組だった。しかし私が気になったのは、スタジオの高校生全員が、図書館員に何か聞けば一緒に調べてくれる、しかもそれは無料のサービスであると聞いて、驚いていたことである。「レファレンス」といえば、図書館員には最重要課題なのに、若い人には全く認知されていないのだと改めて実感した。
 私は現在ある大学で児童サービス論を教えているが、学生に子ども時代の図書館体験を書いてもらっている。レファレンスを挙げたのは50人中3人で、3人ともそのサービスを絶賛していた。ある学生は、中学時代に演劇部で脚本作りに使う本を探しに学校図書館に行ったら、司書が『風とともに去りぬ』を勧めてくれた。長編なので悩んだが、司書がとても知識のある人で、いろいろ助けてくれた。初めはアドバイスを煩わしく感じたが、おかげで良い脚本ができたと報告していた。
 つまりレファレンスは、子どもたちの間に認知されていないが、体験すればとても良いサービスとして受け入れられるのである。

2.準備的サービス 

 レファレンスとは「何らかの情報(源)を求めている図書館利用者に対し、その必要とする情報ないし情報源を効率よく入手できるように図書館員が援助するサービスである。このほか間接サービスとして準備的サービスがふくまれて」註1いる。この準備的サービスが、それぞれの館で整っているだろうか? 子どもが児童室に入ってきたときに、分かりやすい書架配置になっているか? 書架案内や見出しは十分か? 書棚がきつくなっていないか? 最近、子どもが本を取り出せないような書棚を見かける。出し入れがしやすいように、書棚の右側はあけるようにしたい。また書架代わりにブックトラックを使うのも、バリアフリーや安全面、さらに書架配置がわかりにくいなどの点で問題がある。子どもたちの使い勝手を第一に考え、本はたくさんある方が良いという発想をやめ、子どもが見てわかる、手に取って外れの少ない書架を優先させたい。子どもの利用に合わせて上手に書架配置をして、案内をすれば、それだけで「セルフレファレンス」ができるようになる。

3.児童サービス担当者の守備範囲

 児童サービス担当者が受け持つレファレンスを質問者や目的によって6つのケースに分類してみた。

 子どものレファレンス
目 的 具体的事例 質問者 支援方法
1 遊びや暮らしから生まれた疑問 ・捕まえた虫の名前
・割箸鉄砲の作り方
・怖い話
知りたいことが明確 子ども自身が知りたい気持ちをしっかり持っているので、その気持ちに寄り添って、楽しく対応する。
2 自由研究等 ・塩の結晶の作り方
・家族旅行の体験記
・我が家のエコライフ
取り組んでいるうちにテーマが変化する可能性がある 子どもの意欲に合わせて、対応する。調べることが難しい場合や不可能な場合は、テーマや手法を変えるように提案したり、一緒に考えたりする。
3 宿題 ・食糧自給率
・防災
・郷土の伝統工芸
明確な場合から課題がわかっていない場合まで様々 子どもにより意欲や課題の把握が様々なので、子どもに合わせて対応する。簡単に済ませたい子には、その気持ちを尊重する。来館したことが成果につながるように大切に対応し、手ぶらでは返さない。
 大人のレファレンス
目 的 具体的事例 質問者 エンドユーザー 支援方法
4 我が子の疑問に答える ・お月様はなぜ僕の後をつけてくるの?
・地球の裏側では逆さに歩いているの?
保護者 幼児 子どもの年齢を考慮し、親子双方が納得できるように資料提供をする。
5 子どもの読書活動推進
子どもの読書環境の整備
・我が子にお勧めの本の紹介
・読み聞かせのアドバイス
・調べ学習資料の選書
・学校図書館の運営
保護者、読み聞かせボランティア、教師、司書教諭、学校司書、保育士、幼稚園教諭、児童館職員等 子ども 専門家としての知識や経験を生かしながら、資料を用いて答える。
6 児童文学や昔話に関する調べ物 ・児童文学者の経歴
・翻訳の有無
・昔話の類話の存在
学生、子ども読書活動に関わる大人等 本人 一般的なレファレンスだが、専門的知識が期待される。

4.子どものレファレンスに対する基本的な姿勢

(1) 子どもを一人の利用者として迎える

 学校図書館では、何年生という集団として扱われがちだが、公共図書館では子どもを一人の独立した利用者として迎えたい。毎年のように郷土の調べ物で来館するが、図書館員にとってはなじみのレファレンスでも、その子にとっては初めての調べ物なのだ。新しい質問として誠実に答えたい。
 それが、初の図書館利用という場合もある。図書館を利用することは公共のサービスに与るということである。家族や先生以外の知らない大人に自分の要求をきちんと伝えることは子どもにとって難しいが、必要な体験でもある。子どものうちに、公共のサービスに与り、自分もこの社会の一員である意識を育ててほしい。それには迎える側がまず大いに「歓迎」の姿勢を表すことである。

(2) 気軽に聞ける雰囲気を作る

 職員に気軽に聞ける雰囲気を作るのは、図書館全体の目標である。大人でさえカウンターの職員には聞きにくいのに、子どもが図書館員に聞くには、相当勇気がいる。不思議なことに、よく質問される人とそうでない人がいる。良く聞かれる人は「聞いてください」という気持ちが大いにあって、それが体全体から出ている。だから児童サービス担当者も全身から「私に聞いて」オーラを出すことである。まず、入り口から子どもが入ってきたら、「私のお客が来た」と思うような貪欲さを持ちたい。
 質問があってもなかなか聞けない子は、見ているとわかる。ちらちらと職員を見たり、カウンターの前を何回も素通りしたり。声をかけるとほっとしたように聞いてくる子もいる。書架の前で迷っている子どもがいたら積極的に「本を探すのを手伝いしましょうか?」など声をかけてみよう。特に夏休みには時間を作って、見回って声をかけてあげたい。その際、手伝いを拒否されても決して落ちこまないこと。拒否されたのは手伝いであって、あなたの人格ではない。またその時は何も聞かなくても、図書館員に聞いても良いのだということを知らせることにつながる。

(3) 一歩踏み出して、対応する

 大人でもレファレンス・インタビューは難しく、求めていることがわからなかったり、図書館員が勘違いしてしまうこともある。まして子どもがうまく言えないのは当然である。ゆっくり、じっくり、丁寧に聞くことを心がけたい。私たちは、子どもに対応するときには、何でも大人に対するより、一歩踏み出す必要がある。つまり少々おせっかいになるのだ。
 子どもはたいてい「○○について調べたい」、「○○の本はどこか」と言ってくるが、多くの場合、その言葉だけで本や書架を案内しても、彼らの求めるものに行きつくのは困難であろう。島について調べたいが、小笠原の植物についてであったり、動物の本がウサギの飼い方だったり、「キンゲンダイシ」が日本の近現代史だったり。一般に大きすぎる概念か小さすぎる概念で聞いてくる傾向にある。特に子ども自身が課題を明確にわかっていないときには、冷たくせずに、時には積極的に提案したり、誘導したりしてほしい。

(4) 子どものレファレンスに興味を持つ

 子どものレファレンスに興味を持つといろいろなことが見えてくる。子どもがどうやって本を探すか、あるいは探せないか、どういうところを読んで、どういうところを読まないか、どんなテーマを選ぶかなど。聖武天皇について調べにきた子が目の前に「大仏建立」という本があっても手を出さなかったり、逆に上手に大人の本からぴったりのものを探し出す子どももいる。一人の子どもを知ることは普遍的な子どもを知ることに通じる。また、いっしょに本を読むと、子どものつまずくところやわかりやすい書き方がわかり、本を知り、評価することにもつながる。レファレンスで学んだことは、選書やブックトーク、書架の工夫など日々の仕事に生きてくる。

5.子どものレファレンスに回答する

(1) 子どもの理解力(年齢)を考慮する

 絵本や物語を紹介するときに、私たちは年齢を考慮するが、レファレンスで手渡す本も、その子の理解力(年齢)を考慮し、ことを難しくしないことである。子どもの前にこれでもかと本を積み上げるのもお勧めできない。その子に一番ふさわしいと思われる本を選んで数冊並べる程度にしたい。特に、最低ラインで宿題を済ませたい子には、これぞという1、2冊を提供する。積極的な子どもには、範囲を広げて提供する。それには、図書館員に本についての知識が必要なことは言うまでもない。
 また、その子なりに納得するような本を手渡したい。先ほどの表の4の事例で言えば、幼児にどうしてお月様は満ち欠けするのかと聞かれたときには、天文学のやさしい本を見せても、抽象的な概念が育っていないので、理解できない。幼児は必ずしも科学的な事実を求めているのではなく、自分なりに納得できる話を求めたり、両親に答えてもらうことそのものに満足することもある。だから親が求めているような易しい天文学の本を渡しながら、『お月さまの話』註2や『つきへいったら』註3など、自然の不思議に驚き、共感する物語も勧めてみるとよい。

(2) 子どものエネルギーを本に注ぐ

 子どものレファレンスに答えるときには、調べ方を教えるなら、1回につき、一つ教える程度で良い。それより、子どもには本を読むことに一番のエネルギーを使ってほしい。多くの仕方なくやってきた子どもは、ともかく本を手に取り、開き、中身を見て、できるなら「面白い」「わかった」と思えることが一番大切で、図書館員はそこを後押ししてあげたい。
 図書館で回答を与えないものとして「宿題」があるが、それを順守するあまり、図書館員は子どもには余り親切にしてはいけないと規制しているように感じる。私は、この本のここに書いてあると教えてあげても、読み聞かせても全くかまわないと思う。それを読んで、理解し、ノートに書くなりするのは、子どもである。少し自己規制をはずして、もっともっと親切にしようではないか。

(3) 子どもの質問を尊重すると同時にこだわらない

 子どもの聞いてきたことは、まず尊重して、受け入れなければならない。でもその質問には本では答えられないという場合がある。例えば、赤や青などの色の名前を付けた人はどこのだれか、世界中の火山の数、世界の図書館で貸出ベスト1の児童書など。子どもと一緒に調べながら、その回答が不可能なことを受け入れてもらい、新しい課題へとうまく案内したい。
 何か調べなくてはいけないときに、子どもは思いつきでひらめいたことをテーマにしがちである。しかし知りたい、調べたいという気持ちは、その事柄をよく知ってから初めて芽生えるものではないだろうか? 一昨年、図書館の研修でレファレンスを取り上げ、最後には受講生が中学生になったつもりでレポート作成に挑戦した。自館のナイチンゲール、ベートーベン、キュリー夫人に関する資料を読んで、自分なりのテーマを設定し、それに回答するというレポートで、これはある中学校の課題でもある。受講生が一番苦しんだのはテーマの設定で、当初の想定とは違ったテーマになったとか、自由研究をやる子どもは偉いという声が多く上がった。相手の疑問にもっぱら回答してきた図書館員が、質問を作る側になって、質問設定のむずかしさや取り組んでいくうちにテーマが変わることを学んだわけだ。また同じテーマの本を比べ読みすることで良しあしやそれぞれの特徴がわかり、自館の蔵書の評価にもつながった。

(4) 子どもの知りたい気持ちは年齢を越える

 恐竜、乗り物など特定のテーマに興味のある子どもは、児童資料だけでは満足できず、時には一般書の提供も必要になる。その知識欲や理解力を決して侮ってはならない。そんな知識や意欲を持つ子どもには大いに後押しをしたい。

(5) ふさわしい資料がない場合、次につなぐ。手ぶらでは帰さない

 大人には、自館に資料がない場合は、協力貸出や専門機関を紹介するなど、いろいろな方法がある。しかし子どもには、多くの場合次はない。今貸出中だから、来週まで待ってと言ってもその頃には課題も終わってしまう。
 次善の策として、レファレンスに直に答えるものでなくても、その周辺の本を渡すとか、課題を少し変えるなどして、手ぶらでは帰さない。図書館に調べ物に来た子どもが、報われるようにしてほしい。図書館に来た子が先生に褒めてもらい、図書館の人は親切だという感想を持つだけでも、次の利用へとつながる。

(6)  「計画をたてる五分間は、さがしまわる十五分間に匹敵する」

 アメリカの児童文学作家、カニグズバーグには図書館員の経験がある。そのためか『クローディアの秘密』註4には、私たちが学ぶべきレファレンスのお手本がある。クローディアは、天使の小像の秘密を知ろうと、図書館、博物館、さらに像の前所有者フランクワイラー夫人にまで調査の手を広げていく。図書館と博物館の見事な対応を見てほしい。またフランクワイラー夫人の戸棚から秘密の綴じ込みを自力で探す、それも一時間でという最後の場面で、やみくもに引出を開きにかかった弟を制して、冷静に対応するクローディアには、恐れ入る。「計画をたてる五分間は、さがしまわる十五分間に匹敵する」というクローディアの名言には私たちも大いに学びたい。
 すべての子どもはクローディアになる可能性を秘めている。知りたいことがあれば、どこまでも食いついて調べていく。図書館で一人前の扱いを受けてサービスしてもらうのがうれしい。一朝一夕で専門家になれるという楽天性を持っている。知るためなら、冷静な判断で行動できる。だからこそ、図書館員は、子どもの調べ物を大いに尊重し、手助けをし、応援していこうではないか。

 註1 『レファレンスサービス』から 長澤雅男著 丸善
 註2 ニクレビチョバ作 内田莉莎子訳 講談社、『おはなしのろうそく25』所収 東京子ども図書館
 註3 クロウディア・ルイス文 レオナード・ワイスガード画 藤枝澪子訳 福音館書店
 註4 松永ふみ子訳 岩波書店

 本稿は、拙著『がんばれ!児童図書館員』を元に書きました。元の本も読んでいただけたら幸いです。
 ※『はらっぱ』編集委員会註
 『がんばれ!児童図書館員』は、本作りSolaから2014年3月に出版されました。
 ISBN978-4-907491-01-7                              


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