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「はらっぱ」 No.27(2014) 子どもの読書推進活動支援員派遣事業をふりかえる

更新日:2024年2月21日


「はらっぱ」 No.27(2014) 子どもの読書推進活動支援員派遣事業をふりかえる

掲載日:2014年3月28日更新

大阪府立中央図書館 社会教育主事  外海靖規

はじめに

 「子どもの読書推進活動支援員派遣事業」(以下、「派遣事業」)は平成22年度から23年度にかけての2年間実施された。きわめて短期間であり、派遣を受けた団体も多いとは言えはない。しかし、講師派遣によるスキルアップが最終目的ではなく、受講者自身が所属団体の枠を超え、講師として派遣から得たものを拡大再生産することを期待して実施された事業であり、実施以降の発展性こそが本来の目的だといえる。本稿では、大阪府立中央図書館(以下、当館)の社会教育主事として事業にかかわった立場からふりかえってみたい。

1.事業の経緯

 子どもたちの読書に費やす時間の減少は、従前より指摘を受けるものであった。この事態に危機感を持った国は平成13年に「子どもの読書活動の推進に関する法律」を制定し、その第8条に基づいて、文部科学省は「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」を平成14年に策定した。大阪府でもそれらの動きに連動し、平成15年の「大阪府子ども読書活動推進計画」(以下、「推進計画」)に基づいて読書活動推進のための様々な事業を展開していくことになる。「推進計画」では、「本と仲良くなることの上手な子どもが、一人でも多く育つようにするためには、学校や地域において本に親しむことのできる仕掛けづくりが必要」だと考え、「読書の魅力」、「図書館・学校図書館の魅力」に加え、「連携が生み出す力の魅力」として、それまで草の根的に行われていた府内各地の図書館や地域での文庫活動、ボランティアグループの連携による読書の取組を取り込んでいった。

 また、大阪府の教育改革のコアともいえる、平成21年の「『大阪の教育力』向上プラン」では、「子どもたちの豊かな心をはぐくみます」という基本方針のもと、重点項目31を「読書活動の推進」とし、読書を楽しめる環境づくりを進めるとともに、府立図書館における子どもの読書活動推進機能を強化することなどを通じて読書活動を推進することを計画した。

 これを受け、大阪府教育委員会市町村教育室地域教育振興課と当館では、「子ども読書支援センター機能運営事業」として、市町村立図書館の子ども読書推進担当者及び司書教諭の合同研修事業と並んで、子どもの読書活動支援員派遣事業を計画した。

 当館では、「支援員派遣事業」以前から、大阪子ども読書支援実行委員会と共同して、子どもゆめ基金事業「おはなしボランティア支援出前講座」を実施しており、読書活動にかかわるボランティアを支援する必要性とボランティア側からの課題解決のための支援要求を把握していた。そこで、子どもの読書離れという現実から、読書活動推進の充実が望まれるなかで、「支援員派遣事業」が実施されたのである。2年間という短期間ではあったが、読書活動のリーダーを育成するとともに、地域と図書館を連携させることに寄与することが期待された事業であった。

2.事業の実施

読書活動

 本事業は子どもの読書活動について豊かな識見を持った専門家を、各種団体が開催する大人を対象とした研修会へ講師として派遣することで、各種団体の個別課題に対応し、子どもの読書活動の推進を図ることを目的とした。同時に、中央図書館の職員を同行、見学、参加させることで、職員の実践力を高めることも期待された。

対象となる団体はチラシ(上図)やインターネットによって募集し、平成22年度は、84団体の応募があり、40団体への派遣が行われた。23年度は114団体の応募に対し、派遣は36団体であった。応募数に対して派遣数が減ったのは、1団体あたりの講座数を増して内容の充実を図ったためである。

 派遣先の決定は抽選による。ただし、地域による偏りを防ぐため、三島、豊能、大阪市、北河内、中河内、南河内、泉北、泉南の8地域にわけて抽選した。申し込み主体は下表1の通り、学校を活動の中心とする団体が多かった。教員や学校司書だけでなく、学校でボランティア活動をしているグループや保護者からの申込が多かった。

 そのことは下表2が示すように、受講対象者における、ボランティアの占める割合が半数を占めていることからも理解できる。子ども読書の推進にとって、ボランティアの存在の大きさを浮かび上がらせていると言ってよい。

表1

表2

3.団体の求めるもの

 各団体から送られた申請書にはそれぞれの団体のかかえる問題点や希望する講座内容を記述する欄を設けた。それらを概観することで、個別の団体を越えて、子ども読書支援にとって、喫緊の課題を知ることができる。これらの項目を克服、あるいは深化させることで、読書活動の推進を阻害する要因を特定し、ボランティアのスキルアップを支援するポイントが浮かび上がってくるだろう。

絵本について

 絵本そのものの知識(最近の絵本の傾向や世界の絵本について)だけでなく、絵本の存在を自明視せずにその存在意義を教えてほしいという要望があった。

選書について

 文庫活動や学校図書館の運営にかかわるものが共通して持つ悩みでもあるが、図書の購入だけでなく、読み聞かせの際にどのような本を選べばよいのかに悩むボランティアも多い。絵本の選び方のポイントや基準、与え方などだけでなく、絵本選びの目を養う基準となる作家や作品を知りたい、発達段階に応じた選書について知りたいという要望もあった。

プログラムについて

 おはなし会を企画している団体では、児童を引き付ける読み方や雰囲気作り、飽きた子どもへの対処法など、プログラムや構成の組み方を知りたいと考えている。

読み聞かせについて

 最も要望が多様で多く寄せられた項目である。活動年数の少ない団体では、読み聞かせの基本や初歩について知りたいという要望が強かった。また、活動歴の長い団体から、おはなし会の具体的な技術やテクニックについてのアドバイスが多く求められた。雰囲気づくりや子どもたちとの接し方を問う団体や絵本から児童文学への橋渡し、表現遊びへのつなげ方、さらに子どもを本好きにするための方法を求める団体もあった。

発達段階と読書の関係について

 読書活動はブックスタートから児童生徒の読書まで、発達段階で異なるのは当然であり、それぞれの段階に応じた読書活動へのノウハウや心構えが問われていた。また、支援学校での読書支援についての要請もあった。

学校図書館について

 学校図書館では選書、ディスプレー、自主サークル作りのポイント、他校の実践例など、児童生徒が本に親しむためのより具体的な案を知りたいとの欲求が大きかった。

さまざまな読書活動について

 ブックトーク、アニマシオン、パネルシアター、手あそびなど、本や物語を題材とした様々な手法についてのワークショップが求められていた。

ボランティア団体の運営について

 ボランティア団体にとって、個々のスキルアップだけではなく、新人の心構えの形成や団体としてのまとまりをどう作るかなどの組織としての迷いや悩みも見られた。

 すべての団体に講師を派遣することはできなかったが、派遣された団体の持つ問題点を解消するための糸口はつかんでもらえたものと思う。

4.事業を終えて、それから…

 2年間の事業であったが、専門性が高く指導力にも優れた講師陣のおかげをもって、多くの団体から、次のような満足の声をもらうことができた。

  • 本の選び方、読み聞かせの注意点などが大変具体的でよく理解できた(ボランティア)

  • 絵本選びの指針を得て、今後の意欲につながった(ボランティア)

  • ボランティアは自己満足ではなく専門性や責任があることが分かった(ボランティア)

  • フロアワーク、アニマシオン、ブックトークなど司書としての働きを再認識できた(学校司書)

  • 絵本を通じて子どもたちのうちにある発達の芽を引き出すことが理解できた(保護者)

 一方、選から漏れた団体に対する措置も講じられた。選外の参加可能な団体から代表者をつのり、当館の大会議室で、読書活動支援の研修を行った。平成22年度は「子どもと絵本を楽しむ」と題して同じ内容で2回、23年度には「おはなし会を楽しむ」と題して、乳幼児編と小学生編のそれぞれ1回ずつ実施した。

 平成24年度以降は、図書館未設置の地域を重点とした派遣事業と図書館会議室での研修を並行して実施するなど、当館では、「派遣事業」の経験によって技術を磨いた館職員を講師として、派遣事業を継続させている。限られた予算の中であるが、職員が持てる能力を発揮することで、事業の継続を図っている。子どもの読書活動を活発にしたいという思いから始まった派遣事業の遺伝子は確実に図書館職員を通じて受け継がれ、地域の読書活動に浸透しているといえるだろう。


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