児童奉仕実務研修の始まり
 元大阪府立中央図書館司書・大学非常勤講師 脇谷邦子

「児童奉仕実務研修」が大阪公共図書館協会から依頼された事業としてスタートしたのは2004(平成16)年10月のことであった。大阪府立中央図書館が、(財)大阪国際児童文学館と協力して研修にあたっている。その間、特別講座も含め府内の図書館員200人以上が受講し、受講者からの評価も高い。

そもそもの始まりは

この研修を始めることになったきっかけは大阪府立図書館が、1974(昭和49)年から、行ってきたレファレンス研修にある。

レファレンス研修は、当時中之島図書館が担当し、人文・社会・自然科学室と大阪郷土資料室の各室が、府内市町立図書館職員2名ずつ受け入れて行うものであった。府立図書館の資料を使って、資料の解説を受け、実際にレファレンス課題に取り組むというものである。日程的には週に1日、計4回、府立図書館に通ってもらい、ほとんどマンツーマンの指導を受ける実践的なレファレンス研修である。この研修は現在も続いており、これまでに多くの府内市町村図書館職員が受講している。この研修は大阪公共図書館協会からの依頼を受ける形で行っている。府内図書館からの要望から始まったものである。

児童資料のレファレンス研修はなかった

しかし、児童資料に関する研修はなく、府内図書館から児童のレファレンス研修も実施してほしいという声が上り始めた。

大阪府立図書館の児童奉仕開始は、1975(昭和50)年からであり、担当職員も2名しかいず、児童奉仕の実績も浅く、研修を受け入れられるような状態ではなかった。

1990年代に入って、夕陽丘図書館児童室の資料もようやく整ってきた。特にレファレンス資料は積極的に収集してきたので、レファレンスにも力を入れる条件が整い始めた。しかし、職員2名、狭い児童室、開室しながらの研修受け入れはなお厳しいものがあった。

1980(昭和55)年に始まった日本図書館協会主催の児童図書館員養成講座では児童資料のレファレンスの科目があり、1990(平成2)年には府立図書館の児童室担当者が受講することができた。受講をきっかけに、1994(平成6)年『はらっぱNo.18』でレファレンス資料の特集に取り組み、レファレンス資料の解題と、基本的な取り組み方や回答方法などを取り上げた。それに自信を得て、レファレンス研修に取り組んでみることになった。

レファレンス研修の試みから本格実施へ

1995(平成7)年1月、堺市立図書館の協力を仰ぎ、児童図書館員養成講座を受講した堺市立図書館職員2名の協力を受け、夕陽丘図書館で児童資料のレファレンス研修を行うことができた。「レファレンスとは」に始まり、国内資料参考図書及び、洋書参考図書の解題と、事前に課したレファレンス課題の回答および解説という内容であった。

翌年度は中央図書館への移転にあたり、本格的な受け入れ実施は、1996(平成8)年、中央図書館オープン後ということになる。以来、専門(人文・社会自然)資料と児童資料は中央図書館で、郷土資料は中之島図書館で受け入れることとなった。2006(平成18)年からはビジネス資料(中之島担当)が加わって、今日に至っている。

1996(平成8)年、中央図書館開館後は、児童資料に関しては、こども資料室が責任を持って、研修にあたってきた。本格的実施以来、児童資料のレファレンス研修の希望者は多く、各室受け入れ2名が原則であるはずが、毎回、こども資料室は4〜5名程度受け入れざるを得ないような状況であった。

児童奉仕実務研修の必要性

児童資料の研修生と交流する中で、レファレンスも大事だけれど、それ以上に、日々の仕事=児童奉仕の実務的な研修を切実に求めていることを実感するようになった。すなわち、購入図書の選択、おはなし会の持ち方、読み聞かせの仕方、行事の持ち方、プログラムの立て方等々。

その背景には深刻な人員不足がある。行政改革の名の下に、正規職員が減らされ、それでなくても、行革や評価のための資料作りなどの仕事にも手を取られ、正規職員の方に大きな負担がのしかかり、一人一人の職員のスキルアップに手間ひまかけるゆとりが失われ始めたことが窺えた。

また、子どもの数が減り始め、その一方で、ビジネス支援だの、課題解決のためのサービスだのと新しいサービスのニーズもあり、相対的に児童奉仕の位置付けが低くなり、図書館の経験の浅い若手職員が児童奉仕の担当となっている傾向が窺われた。

以前は、児童奉仕に関しては館内で研修に取り組むゆとりがあったのだが、そうしたゆとりが全般的に失われてきているようであった。

実務研修実施のための方策を探る

実務研修の必要性をひしひしと感じたが、府立図書館にも人員体制のゆとりはなく、予算の裏付けもまったくない。府立図書館の役割を考えた時、これは実現させなければならない研修である。 そこで、大阪公共図書館協会に働きかけ、研修委員会で検討していただき、大阪公共図書館協会から、府立中央図書館と(財)大阪国際児童文学館に研修を依頼するという形で、2004(平成16)年度から実施できることになった。必要に応じて外部講師も招けるように予算措置もしていただけることとなった。 (財)大阪国際児童文学館との協力

大阪府には大阪府立国際児童文学館という専門資料館がある。そこでは専門員がいて、児童資料や児童文化の研究が行われている。

2002(平成14)年度から、「大阪府子ども読書活動推進協議会」が設置され、(財)大阪国際児童文学館が大阪府子ども読書活動推進の事務局となって、府内図書館とも協力して、子ども読書活動推進事業を展開する中で、児童文学館と府内図書館との交流が進んできた。

児童文学館には児童文学・児童書の専門家がいて、子どもと子どもの本を取巻く様々な事象を分析し、体系付け、法則性を見出し、明らかにして、方向性を示唆してくれる。作品の読みや、評価についても研究に裏打ちされた深いものがある。

せっかく、大阪に児童文学館があるのだから、そのメリットを活かしたいと考えた。児童文学館からも快く協力してもらえることになった。

 

実施にあたって企図したこと

研修の企画にあたっては、受講者を絞り、講義を聞くだけの受身の研修でなく、宿題や事前学習を課し、ワークショップ形式も取り入れ、自ら積極的に参加して学ぶことを求めた。

職場にゆとりがなくなり、厳しい職場環境の中にあって、多くの事前課題は厳しすぎるのではないかという懸念もあったが、受講者は皆よく頑張ってくれたと思う。講師には現場の図書館員にも加わってもらい、現場で役に立ち、スキル向上にも役立つ内容を心がけたが、実務向上のみを目指したのではなく、理念・理論も大切にし、理念・理論に裏打ちされてこそ、本当のスキル向上につながると考えた。

研修の成果

研修実施に当たっては人数を絞って、少人数で行う予定であった。せいぜい10人程度と考えていたのに、希望者が多く、初回は15〜16人程度受け入れざるを得なかった。基本は3回講座とし、時に、「わらべうた」などの特別講座も実施している。

事前に課題を出し、結構ハードな研修内容になっているが、頑張って勉強したことがそれぞれの自信につながっていることが見て取れる。

受講者自身のスキルアップは勿論のことであるが、何よりも日常の仕事を、今一度見直し、振り返り、再点検するきっかけになったのではないかと思う。

また、他の図書館の職員との交流も大きな成果となっている。同じ悩みと課題を持っていることに気が付き、しんどい気持ちが少し楽になったり、他館のやり方からヒントをもらったり、今後、情報の交換ができる人脈づくりにつながったことである。

研修をとおして、仕事の意欲が増した様子が窺えるのが、何よりも嬉しい成果である。

小人のイラスト