図書館の児童サービスの原点を考えるために
−児童奉仕担当者研修のこれまでとこれから−
   (財)大阪国際児童文学館 土居安子

1.大阪府子ども読書活動推進計画を策定して

平成14年に「大阪府子ども読書活動推進計画」が策定されたことを契機に、 大阪国際児童文学館(以下、児童文学館とする)が大阪府子ども読書活動推進連絡協議会の事務局となり、大阪府立中央図書館、 大阪府子ども文庫連絡会や学校図書館を考える会・近畿等とともに、府域の読書活動のボランティアグループの支援を行う事業を行った。 推進計画のキーワードは「連携」であり、ボランティアグループへの支援講座の中でも、シンポジウムのテーマとしても、 子どもの読書活動に関わる機関・組織どうしの連携をいかに広げ、深めて子どもの読書活動を推進するかという視点で事業を行った。 そうしていく中で、市町村図書館員を対象とした研修の必要性を強く感じた。  

市町村の子どもの読書活動を推進する上で図書館は拠点であり、組織や機関を結びつけ、ボランティアグループを支援する要の機関である。  

求められている力量として、ボランティアグループに助言できる子どもの本や読書に関わる専門性と学校や教育委員会、 保健所や健康福祉課などと市民を結ぶコーディネート力があると思われた。  

そこで、平成16年度から、府域の図書館のネットワークの要である府立中央図書館(企画協力課の司書と子ども資料室の司書) と子どもの本の専門的な総合的資料館である児童文学館(司書+専門員)が協力して、OLAの支援を受け、児童奉仕実務研修を行うこととなった。

2.立案、テーマの推移

毎年度の講座で特に留意した点は、事前に参加者の図書館の現状を把握してもらうこと、 必ずワークショップ形式を取り入れ、実務に役立てるようにすること、また、それによって図書館員どうしの交流を深め、 学びあう場とすること、すべての研修が「図書館とは何か」「児童サービスとは何か」という根本的な問題と関わっていることを意識的に伝えることであった。つまり、ハウツーではなく、参加者が自らの市町村の図書館の運営をどうしていくのかを考えてもらえるような研修を企図した。

また、講師はできるだけ府域の図書館員、市民、児童文学館の職員などが担当し、府域のネットワークの広がりを意図した。  

1年目(平成16年)は、児童奉仕担当年数5年以下の図書館員を対象に、おはなし会で絵本を選んで読めるようになる講座を行った。 これは、多くの図書館でおはなし会がボランティアグループの担当で運営されているという状況を知り、 図書館員に本と子どもを結ぶ活動を行って欲しいという思いから企画した。

2年目(平成17年)は、公共図書館が最も悩むのが選書であり、また専門性とも深く結びついていると考え、 「図書館で本を選ぶ」という3回連続講座を行った。あえてテーマに「図書館で」を付したのは、 図書館の選書は本の専門家として1冊を評価する力量をつけるとともに、 地域性や蔵書構成、利用者のニーズ等を鑑みて選書を行うことが必要であり、 そのことも含めて「図書館の選書」として学びあいたいと思ったからである。  

3年目(平成18年)には、ボランティアグループへの絵本の選び方や読み方、プログラムの建て方をアドバイスできたり、 講師になったりできる専門性を身につけて欲しいという思いから「公共図書館のボラティア支援を考える」というテーマで支援講座のありよう、 立案、実践を行う研修を企画した。  

その中で、「おはなし会」そのもののありようを再確認する必要を感じ、4年目(平成19年)は「図書館でのおはなし会のあり方を考える」というテーマで、おはなし会のプログラムを立案して発表すると同時に、ストーリーテリングの実践、ボランティアグループとの協働のありようについても考えた。  

このように4年間は専門性を磨くこととボランティアグループへの支援や協働についての研修であったが、 図書館に求められていることとして、学校との支援・連携があり、市町村によって状況は大きく異なるものの、 それぞれ課題を持っていると思われた。そこで、5年目(平成20年)は、「学校図書館と公共図書館との連携について考える」 というテーマの研修を行うこととした。参加者は研修前に各参加市町村図書館と学校との連携状況を把握したり、 学校図書館を見学に行ったりすると同時に、現状をよりよくするための方策について具体的に考え、グループで話し合った。  

3.成果と課題

5年間にわたる研修は試行錯誤の連続で多くの反省と課題を残した。

たとえば、3年目の支援講座を考える研修は明らかに時間不足であった。 また、本来4年目の「おはなし会のありよう」を考えた上で3年目の支援講座の実践を行った方がより研修が深まったと反省している。  

また、図書館員が年々多忙になって研修に参加できない状況が増えている点も課題である。 そのような図書館こそ、府としての支援をいかに行うか、方策を考える必要がある。  

一方で、最も大きな成果は、図書館員どうしの交流が深まったこと、 参加者が自らの図書館や児童サービスを見つめる機会を持ってくれたことである。  

また、府域の図書館員や市民を講師に迎えたことで、研修で語られる図書館の状況について参加者が具体的なイメージを持つことができた。 また、参加者と講師は研修のみのつながりでなく、研修後も相談したり、情報交換をしたりすることができていることは大きな成果であったと思う。  

研修を考えるとき、ついつい目先の効果を意識して、すぐに役立つ実務的内容を考えがちであるが、図書館が厳しい今こそ、 図書館とは何か、児童サービスとは何か、子どもの読書活動の推進のために図書館はいかなる役割を果たすべきなのかを府域全体で考え、 進めていくことが重要であると考えている。つまり、待ちの姿勢ではなく、担当部局と交渉して施策を提案したり、 市民グループと協働できたりする図書館こそが、図書館の意義をアピールするために必要であると考えている。

4.今後に向けて

児童サービス担当者が短いスパンで入れ替わる状況の中で、児童書の基本情報と知識を持つ、1冊の本を評価する観点を持つ、 集団の前で絵本を読んだり、お話を語ったり、おはなし会のプログラムを構成する、子どもの本とは何か、子どもの読書とは何かについて考える、 などの基礎的な研修の必要性を感じる一方、 市町村全体の子どもの読書活動をいかに推進するかを考える企画力やコーディネート力を身につけられるような中級講座の必要性も感じている。

今後も府立中央図書館のネットワークをいかして市町村図書館の現状や課題、研修に対するニーズを把握しながら、 児童文学館の専門性を活かし、府域の図書館が学びあいながら、ともに成長していけるような研修を企画・立案していきたい。