大阪府立中央図書館における子どもへの地域資料サービスについて

 子どもたちに、自分の暮らす町や地域について関心を持ってもらうために、府立中央図書館こども資料室では、平成23年度3月、「おおさかコーナー」を設置した。平成24年度には、大阪のテーマに絞った「こども向け調査ガイド」を作成し、子どもたちが「おおさか」に関する資料に親しみ、実際の利用に結び付く機会となるよう、夏休みに「こどもおおさかはかせ クイズラリー」を実施した。

 近年、子どもたちの調べ学習が注目されている。新学習指導要領の全面改訂(小学校:平成23年施行)に伴い、「探究的な学習」がクローズアップされ、「総合的な学習の時間」の中でも、「地域の人々の暮らし、伝統と文化など地域や学校の特色に応じた課題についての学習活動を行うこと」と明記された。この動きを受けて、今後、図書館での子どもへの地域資料サービスへのニーズが高くなると予想される。

 府立図書館では、一般向けの地域資料に関しては、中之島図書館の大阪資料古典籍室が歴史的な資料も含め豊富な資料を所蔵し、専門的な活動を展開してきたが、子ども向けのサービスについては積極的に取り組んできたとはいえない。子ども向けの地域資料は出版点数も少なく、年齢に応じて、理解しやすい資料を探すことが困難な面もある。

 子どもたちにとって、わかりやすく、そして、地域に関心を持ってもらうにはどんな工夫が必要なのか、こども資料室で始めた3つの取り組みについて報告する。

1.こども資料室の概要について

 まず、こども資料室の概要を簡単に説明する。
 大阪府立中央図書館の1階に位置し、所蔵冊数145,543冊、開架冊数23,000冊、面積627㎡、座席数100席、室内におはなしのへやを有する。資料の整理方法は、NDC分類を3桁まで採用しているが、配架は子どもが手に取りやすいよう、読み物は低学年向けと高学年向けに分け、知識の本も「かんきょう」、「きょうりゅう」、「こうさく」等、子どもの関心が高いテーマに見出しを付している。

 府域の市町村図書館を支援するため、予算の制約はあるが網羅的な資料の収集と提供を目指すほか、モデル事業として様々な事業にも取り組んでいる。通常のおはなし会に加え、乳幼児向けおはなし会、手話によるおはなし会、多言語のおはなし会を実施、自由研究のための講座や学校支援の取り組み等を行っている。また年1回、府域市町村図書館の児童サービス担当者連絡会を開催し、それらの取り組みの方法や成果の情報提供をしている。

* 所蔵冊数、開架冊数は平成23年度末現在の数字

2.「おおさかコーナー」の設置について

 これまでも、学校の調べ学習で地域に関するレファレンスを受けることは多くあった。
 質問内容は、当館の立地から「東大阪の中小企業について」、「大和川の付け替え工事について」、「東大阪の歴史について」など、東大阪地域に関することが多いが、例年、夏休みには、遠方からの来館者も増え、「大阪大空襲について」や「緒方洪庵について」といった大阪関係のレファレンスも受けてきた。これらは、子どもからの質問ではあるが、子ども向けの資料だけでは対応が難しく、一般資料やパンフレットも含めて活用していたが、こども資料室内では、テーマごとの配架をしていたため、他の図書とまぎれてしまうこともあった。また、カウンターバックにレファレンス業務用としておいた資料は、子どもの手に取られることもなかった。

(1)「おおさかコーナー」の概要

 府立図書館では、平成22年度以降、館内各課横断的な「レファレンス検討チーム」(平成24年度より「レファレンス検討委員会」)において、レファレンスサービス強化の取り組みを展開してきた。その中で、子どもへのレファレンスについても検討し、こども資料室では、地域資料のレファレンスを強化することにした。
 「おおさかコーナー」の設置は、平成23年度の春休みまでを目標とした(写真1)。

おおさかコーナー

(写真1)

  • 設置場所は、こども資料室の入口付近の固定書架(2連)
  • 見出し項目
    「大阪の歴史」、「大阪の地理」、「大阪の自然」、「大阪の産業」、「大阪の有名人」、「大阪の文化」、「大阪の昔話」、「大阪の絵本・読み物」、「大阪の副読本」に分け、手に取りやすいようにした。
  • 資料点数は、280点(平成25年1月現在)
    古い資料や一般資料も混配して並べた。行政資料などは薄い形態のものも多く、パンフレットボックスを使った。
  • 配架の工夫
    薄い形態の資料は、背にもタイトル表示のテプラを貼るなどの工夫が必要だった。配架のためには、目印となる「茶色いシール」を背に貼った。

 コーナーに配架する資料を集める際には、これまで集めてきた資料のほかに中之島図書館の大阪関係資料のうち、子ども向け資料を参考にした。中之島図書館で複数部所蔵している資料で、子どもが活用できそうなものについては中之島図書館にも協力を仰ぎ、移管を検討している。また、雑誌『こどもの図書館きんき』 №64 (児童図書館研究会近畿支部 2010年12月)の大阪昔話絵本の記事も参考にした。

(2)「めざせ!こどもおおさか博士!」&「おはなしかい!」2012春

 「おおさかコーナー」のお披露目もかねて、春休みイベント「『めざせ!こどもおおさか博士!』&『おはなしかい!』2012春」を平成24年3月31日に実施した。
 このイベントでは、「おおさかコーナー」の資料を利用しながらチャレンジするクイズ(参考資料1)と大阪をテーマとしたおはなし会(p.26 おはなし会プログラム参照)を実施した。お土産付のクイズということで、子どもたちも興味を持って取り組み、また親子で取り組む姿も多々見られ、「おおさかコーナーをはじめて知りました」という声もあがるなど、大阪についての関心も芽生えたように見受けられた。こうした、「おおさかコーナー」広報のための取組みは、平成24年度以降も継続実施している。

3.こども向け調査ガイド

(1)経緯

 当館では、調べものをする際に有用な参考図書やウェブサイトなどを紹介する「調査ガイド」を、作成している。この「調査ガイド」は多くの利用者に活用されているが、大人向けの内容であった。そこで平成24年度から、大人向け「調査ガイド」とは別に、「こども向け調査ガイド」の作成を行うことになった。

(2)準備~作成・公開まで

 作成テーマは、平成23年度3月に設置した「おおさかコーナー」の利用促進にもつながるよう、「大阪」とした。夏休み前に全館(主に館内レファレンス検討チーム)からアイデアを募集し、そこで出た意見を参考にしながら、こども資料室職員が「こども向け調査ガイド」を作成した。
 平成24年12月時点までに作成したテーマは、「インスタントラーメンの発明者」、「なにわの伝統野菜」、「松下幸之助」、「大阪の戦争」、「大和川の付け替え工事」、「まいど1号」、「漫才」、「大坂城」、「文楽」、「上方歌舞伎」、「統計(ハブラシ等)」、「コシノ三姉妹」、「緒方洪庵」、「井原西鶴」である。
 作成にあたってはデザイン面にも気を配った。国立国会図書館国際子ども図書館のページ「キッズページリンク集」中の「公開機関別に調べる」ページ(注1)から、子どもむけ調査ガイド(パスファインダー)の先行事例を調査した。子ども向けの調査ガイドを作成している公共図書館は少なかったが、その中で東京都立図書館「自由研究アイデアカード」(注2)と、川崎市立図書館の「パスファインダー(こどもページ)」(注3)が参考になった。「自由研究アイデアカード」は、コンパクトで手に取りやすく、調べもののきっかけづくりとして役立つように思われた。「パスファインダー(こどもページ)」は、大人向けと同じくらいの分量の調べ方ガイドで、所蔵資料だけでなく関連文化施設の紹介なども行っていた。

 検討の結果、当館で作成する「こども向け調査ガイド」は、子どもたちが手に取りやすいよう、A5サイズ両面印刷とすることにした。情報量としては「自由研究アイデアカード」と「パスファインダー(こどもページ)」の間くらいとなる。表面にテーマに関するクイズ、裏面にクイズの解答と関連所蔵資料、関連文化施設の案内を掲載した。実際に配布したものは、本稿末の参考資料2の通りである。柱の壁に色画用紙を貼り「知ってる?木」と名付け、ウォールポケット様にして、「こども向け調査ガイド」を置いた(写真2)。
 また来館者以外にも利用してもらえるよう「こども向け調査ガイド」をHTML化して、当館ウェブサイト上にもアップした(注4)。ページデザインは、既に当館ウェブサイト上に掲載していた(大人向けの)「調査ガイド」に倣ったが、文字の大きさを全体的に大きくしている。

知ってる木

(写真2)

4.こどもおおさかはかせ クイズラリー

 「おおさかコーナー」の設置、「こども向け調査ガイド」の作成と取り組みを進めてきて、平成24年度の夏休みには、もっと子どもの視点で、子どもたちが楽しみながら資料に出会う、新しい知識の発見につながる取り組みを展開したいと考えた。

(1)クイズラリーの概要

 一日で終わるイベントではなく、夏休み期間(平成24年7月21日~8月31日)の6週間、継続する取り組みとし、子どもたちが次々とチャレンジしたくなるしかけを考えた。
 夏休みに入ると、大阪に関するクイズを毎週3問ずつ出題、問題用紙(参考資料3)をこども資料室カウンターで配布した。
 前述の「知ってる?木」の「こども向け調査ガイド」や、「おおさかコーナー」の資料を見れば、クイズが解けるという筋書きで、これまでの取り組みの成果であるコーナーの資料やガイドの活用につなげるしかけである。解答を出すのが難しい子どもには、職員が声をかけて対応し、解答へと導いた。

 3問とも正解すれば、手作りのプレゼントを1つ進呈し、「こどもおおさかはかせ クイズラリー」参加用紙の該当週にシールを貼付した。間違えても、何度でもチャレンジ可能としたので、チャレンジした全ての子どもが達成感とともに、何かのプレゼントを持って帰ることができた。さらに、「こどもおおさかはかせ クイズラリー」の参加用紙にシールが3つたまれば、「こどもおおさかはかせ認定証」を授与し、特別バージョンのプレゼントも進呈した。

挿絵

(2)準備について

 出題する問題については、読書支援課長とこども資料室職員で考え、館内のレファレンス検討チームの意見も聞きながら作成した。また、手作りプレゼントは、常時、複数種類のプレゼントを用意した。折り紙のこまや切り紙、ペットボトルのけん玉、ブックカバーをつかったしおり、ビニールのパラシュート等に人気があった。常時5~6種類のプレゼントがあったので、子どもたちは、それらの中から選ぶのも楽しみのようであった。ペットボトルなどの材料は、全館の職員にお願いし、調達した。

(3)クイズラリー参加者

 期間中、クイズ参加者は、のべ1,283人(一日平均36人 最も多かった日は122人)。「こどもおおさかはかせ認定証」発行数は、108枚だった。また、当初想定していなかった6週全問正解者が8人もいるという、うれしい結果となった。

(4)クイズラリーの効果

 クイズラリーの効果は大きく、3週目ぐらいから、問題用紙を受け取ると、すぐ「知ってる?木」に向かう子どもの姿が多く見られ、「知ってる?木」の認知度アップには効果大であった。
 また、子どもだけでなく、親である大人の関心も得ることができ、一緒にクイズに取り組む親子連れも多かった。遠方から大阪の祖父母宅へ来ている子どもたちも興味をもって参加してくれ、大阪府の生涯スポーツのマスコット「モッピー」のキーホルダーを「大阪のお土産」として大事に持って帰って行ったのが印象的だった。クイズラリーは、子どもたちにとって楽しかったようで、クイズラリー終了後も、「まだやっているか」等の問合せや、「またやりたい」等の声が多く寄せられた。参加出来なかった週の問題を求める子どもも複数いるなど、郷土である大阪に関心をもってもらえた様子がうかがえた。問題づくりやプレゼントの準備は大変だったが、実施してよかったと感じられるイベントだった。

5.今後について

 当館における子どもへの地域資料サービスは、まだまだ始まったばかりで課題も多い。
 「おおさかコーナー」は、分散していた資料を集めただけのコーナーなので、古い資料であったり、市町村作成の学校副読本は所蔵状況にばらつきがある。コーナーに集約したことで、関連資料の傾向と、所蔵資料では不十分な点が見えてきた。統計や年次報告は、最新資料の出版状況を調べなければならないし、所蔵していない市町村の副読本等は収集の努力をするなど、資料の充実を図る必要がある。「知ってる?木」の「こども向け調査ガイド」は、夏休み後も「大阪の戦争」、「大和川の付け替え工事」等の宿題に役立った事例があり、今後さらに充実させていきたいと考えている。そして次年度以降は、大阪関係に限らず、学校の教科内容に即したテーマへと広げていければと考えている。尚「こども向け調査ガイド」は、広く利用してもらうために順次当館ウェブサイト上にアップしていく予定である。
 また、中之島図書館とも連携して、資料の移管をはじめ、協力体制を整えて、地域資料サービスの充実を図っていきたい。そして、直接来館する子どもたちはもちろんのこと、学校への支援、府域の図書館のバックアップができるよう、資料の収集に努め、子どもたちの利用へ結びつけられるニーズの把握とサービスの展開を模索していきたいと考えている。さらには、府域市町村図書館の地域資料への取り組み状況の把握と情報提供、府域全域の特徴的な(役立つ)地域資料の紹介や、レファレンス事例紹介等についても検討していきたい。

挿絵

注)

  1. 国立国会図書館国際子ども図書館「公開機関別に調べる」
  2. 東京都立図書館「自由研究アイデアカード」
  3. 川崎市立図書館「パスファインダー(こどもページ)」
  4. 大阪府立中央図書館「こども向け調査ガイド」