平成23年度近畿公共図書館協議会研究集会(兼児童奉仕部門研究集会)報告

平成23年9月22日(木)大阪府立中央図書館において、近畿公共図書館協議会・大阪府立中之島図書館主催、大阪公共図書館協会共催で、平成23年度近畿公共図書館協議会研究集会(兼児童奉仕部門研究集会)を開催しました。

研究主題:「ことばの力を育む」

趣  旨:ことばの力を育むと、論理的な思考力や多様な表現力が身につきます。それはまた、自ら考えて行動し、自分の考えを表現する能力を身につけて、相手を思いやる心を養う、人とつながるというコミュニケーション力につながります。読書を通じて、ことばの力を育み、生きる力を育てるために、乳幼児期からヤングアダルト世代まで、図書館はどう関わっていけばよいのかを考えたいと思います。

基調講演は鳴門教育大学名誉教授佐々木宏子氏にお願いし、「ことばの力を育む」と題し、講演していただきました。基調講演は台風15号の影響で、午後になりましたが、講演を聞いた当館職員の感想を、最初に掲載しています。

事例発表は3館にお願いしました。報告を載せるに当たり、事例発表1は、発表者に新たに原稿と写真を送っていただきました。表紙写真もその一枚です。

事例発表2と3は発表者にパワーポイントのデータを提供いただき、編集委員で原稿にしました。各々映像を駆使しての発表でしたので、活字でどれだけお伝えできますでしょうか。

その後、コーディネーターに奈良県の香芝市民図書館長の谷垣笑子氏、助言者を佐々木宏子氏にお願いし、研究協議を行いました。佐々木宏子氏の研究協議後の助言とまとめは、これからの図書館にとって、大変励みになる内容でした。

好評だったアンケート結果を編集して掲載し、まとめとさせていただきます。

基調講演「ことばの力を育む」(佐々木宏子氏)を聞いて

前日の台風の影響で、徳島から来てくださった先生の到着が遅れ、午後からの開始となった。

まずは『リトルピープルの時代』(1)で取り上げられた「拡張現実」の紹介から始まり、その後、子どもの姿を記録したDVDを視聴し、レジュメに沿って講演された。DVDでは、ひとりの子どもが発達にしたがって見せる反応の違い、同じ絵本でも子どもによって見せる反応の違いなどが興味深かった。

理論だけでなく、実践に基づいた講演は、わかりやすかった。講演の中で印象に残ったのは次の7点である。

1:子ども時代に必要なこと

子ども時代に必要なこととして「群れて遊ぶ」、「子ども同士でたっぷり遊ぶこと」をあげておられた。これによって、人間関係のコツをつかみ、コミュニケーション能力をつけるということだ。ブックスタートも、絵本を渡すことが目的ではなく、絵本を媒介とした親と子の時間の共有が目的である。

著書『絵本は赤ちゃんから』(2)でも、「赤ちゃん絵本による“つなぐものとしての絵本”で、読み手と聞き手の間にコミュニケーション回路が完成すると、次には、その回路を使って、幼児は意味の世界へと入ります。そうすると、絵本は幼児にとっては、“伝え合うものとしての絵本”の役割を果たしはじめます。・・・(中略)・・・しかし、絵本の内容を十分に理解し楽しむためには、それまでの子どもたちの経験が大きく影響を与えます。幼児はおとなのように言葉や想像力のみで知識や経験を深めることがまだ得意ではありません。まず、自分自身の身体を使ってさまざまな遊びや経験をし、具体的な認識を積み重ねなければなりません。具体的な活動の世界が広がれば、それだけ多様な絵本の世界を楽しむことができるようになります。具体的な経験を無視して絵本の世界から何かの知識を得たとしても、それが力となるためには常に何かが不足しているのです。」(238-239p)と、子ども時代の具体的な経験(遊び)の必要性を述べておられる。

2:絵本はコミュニケーションを誘発するもの

DVDで視聴した「ももたろう」の話の反応の違いを追ってみると、5ヶ月のときは語り手といっしょに話すかのごとく口を動かし、10ヶ月では、オノマトペに反応を示しキャッキャッと笑うが、2歳を過ぎたころには言葉が分からないから聞かないという現象が起きる。10ヶ月の反応は、音声のやりとり、ジェスチャーのやりとり、行為のやりとりを通してコミュニケーションの体験「やったりとったり」をしているともいえる。

絵本『もこもこもこ』(3)では、5ヶ月のときにはオノマトペに反応しつつ、読み手の表情を確かめる仕草が伺える。10ヶ月のときには、大笑いしたりと派手に反応を示す。

著書『赤ちゃんと絵本をひらくひととき』(4)で「赤ちゃんは“意味の世界”に入る前に、日本語のメロディやリズムのようなものに惹かれていきます。それがうまく絵に描かれていたり、“めくる”というリズムと、赤ちゃんがとても楽しいと思うオノマトペ(擬態語・擬声語・擬音語・擬情語など)などが、うまくかみ合った絵本があると、その世界をとても楽しんでくれるということが、研究を進める中でだんだんと分かり始めました。“赤ちゃんと絵本の関わり”とは日本語が成立する以前のもので、意味が分かるようになってから絵本を読むのとはちょっと質が違うものだと思います。」(9-10p)と述べておられる部分につながる。

3:読み手の読みで絵本を楽しむ

おひざで抱っこして読むスタイルは、読み手の表情が見えないので楽しくないそうだ。DVDでは、絵本『おつきさまこんばんは』(5)を読んでもらっていたが、実は読み手の顔を何度も見るのである。「おひざで絵本」というのが一般的かと思っていたが、そうではないのだ。

絵本をよむということは、「絵本・読み手・子ども」の三項関係にあり、読み手の顔(表情)を見せることが大切だというのだ。「ことばが自立するまでは、読み手の読みで絵本を楽しむ」というのは、この関係をさしている。

ブックスタートの立ち上げから関わっておられる先生としては、ブックスタートのラッコスタイルのデザインが、変更できず残念だったそうだ。

4:読書について

「読解力とは、自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力である。」と言われた。就学前の読書活動はコミュニケーションが主となり、小学生の読書活動は学校教育+αになるということだった。

学校での読書について触れられた時、「戦時中に、読書で戦争へと導いたことへの反動から、読んだ後に“一斉に何かをする”ということを嫌う傾向があり、読みを共有しない。」と言われたのが印象的だった。

図書館は、様々な資料をもとに、多様な文化・意見に触れられる場でなければいけないと、改めて思った。「本を使いこなす力は、読もうと思ったときに読める環境を用意することで育まれる。」の言葉にあるように、読もうと思ったときに読める環境としての図書館が、子どもの身近になくてはならないと思った。

5:自覚的な読書について

「幼少期に絵本が好きでも、学童期にゲームに傾倒していくのをとめることはできない。自覚的な読書を始める時期は子どもによって異なる。」という点が印象に残った。

今の子どもの周りには、ゲームやパソコンといったものが生まれたときからある。著書『絵本は赤ちゃんから』(2)には、1歳半からパソコンに触れはじめた事例も紹介されていた。その中で、興味深かったのは、新しいメディアの出現に対して、絵本と対極に置くのではなく、親がそれらとどのようにかかわっていくかを問題視されていたことだ。

6:社会をつなぐ読書について

「“読む(あるいは観察)→書く→議論する→第三者に伝える”この過程が読書アクションであり、価値観の違いに出会うことが重要なのである。読書が他者とつながる、社会とつながる読書であってほしい。」と述べておられた。

ネットの世界では、SNSやTwitterなどでつながっていく。「社会をつなぐ読書とは何なのか?」を考えたいと思った。

7:新しいメディアの出現について

教科書が電子書籍に変わる日もくるという話を聞きながら、「本」という“かたち”が変化し「読書」も変わっていくかもしれないと感じた。新しいメディアの出現に対して、「図書館としてそれらを子どもにどう手渡していくのか?」考えていかなければならない。

最後に、「絵画などのビジュアルでは表現できない深いものを言葉は持っている。その言葉を大人が使いこなす必要がある。すなわち、生活の中でどのように本を読んでいるか?(他者とつながっているか?)ということで、「読書とは何か?」を考えるきっかけに!」としめくくられた。赤ちゃんの姿を記録したDVDの視聴から、新しいメディアの出現の話題まで盛りだくさんの講演だった。

* 引用文献・絵本

(1)『リトル・ピープルの時代』(宇野常寛/著 幻冬舎 2011.7)

(2)『絵本は赤ちゃんから』(佐々木宏子/著 新曜社 2006.2)

(3)『もこもこもこ』(谷川俊太郎/作 文研出版 2006.3)

(4)『赤ちゃんと絵本をひらくひととき』(佐々木宏子/[述] ブックスタート 2010.12)

(5)『おつきさまこんばんは』(林明子/さく 福音館書店 1986.6)