<事例発表3>東近江における子ども読書活動推進
~人とのふれあい、自然とのふれあい、本とのふれあいで子どもの生きる力をはぐくむ~
平成22年度 地域ぐるみの子ども読書活動推進事業の取り組みから
東近江市立永源寺図書館 江竜喜代子

ただ今、ご紹介いただきました滋賀県の東近江市立永源寺図書館の江竜と申します。よろしくお願いいたします。

東近江市は平成17年2月に旧八日市市、永源寺町、五個荘町、愛東町、湖東町が合併し、さらに平成18年1月に旧能登川町、蒲生町が加わって、鈴鹿山脈の山ふところから琵琶湖まで広がる現在の市となりました。人口は約11万8千人です。合併以前から旧市町ごとに図書館または図書室が設置されていまして現在、市内には7館があります。

平成18年1月にはコンピュータシステムの統合を行い、1枚の利用カードでどこの館でも共通に貸出、返却、検索、リクエスト等のサービスを提供し、どこに住んでいても全ての図書館の蔵書が利用できるようになっています。図書館間には巡回車配本システムを導入し、より効率的な資料運用を目指しております。

今回は、平成20年3月に策定しました東近江市子ども読書活動推進計画とその一環で、平成22年度に実施しました「地域ぐるみの子ども読書活動推進事業」についてお話したいと思います。

東近江市子ども読書活動推進計画策定後の取組みから

東近江市子ども読書活動推進計画は5か年計画になります。

まず、大きなこととして、平成20年度から学校司書の派遣を始めました。生涯学習課から、各学校の校長先生が集まる「校長会」にて、読書推進モデル校になることを希望する学校を募り、派遣先を決定してゆきました。現在4年目ですが、モデル校の入れ替えはしていません。継続して司書を配置することで長期的なスパンでの学校図書館サービスの充実、蔵書構成や図書館活用教育をすすめてゆくことができると考えています。現在7人の司書が一人2校ずつ合計14校を担当しています。推進計画では5年間で全校への配置を目標にしており、それにはまだ及ばない状況ですが、司書の入った学校図書館の変化は目覚ましいものがあります。

公共図書館から学校への働きかけとしては市内の小中学校の図書主任会への参加、学校向け「市立図書館利用案内」の作成・配布があります。実際に顔と顔を合わせて話しながら情報交換をし、利用案内をすることでお互いの協力関係が深まりつつあります。

また、学校教育課を通じて市内の小中学校の児童・生徒に向け利用登録を呼びかけました。その成果もあり、登録率は7~12歳では90%以上、13~15歳では80%以上になりました。団体貸出も年々伸びています。学級文庫やクラスでの読書の時間のために、先生方が 図書館に借りに来られます。このとき心がけているのは本の準備を全部図書館で請け負うのではなく、先生と意見交換をしながら本を選ぶことです。

平成22年度 地域ぐるみの子ども読書活動推進事業

では、22年度に行いました「地域ぐるみの子ども読書活動推進事業」についてお話しいたします。言葉の通り地域ぐるみで子ども読書活動の推進をしていこうという取り組みで、地域や学校、家庭で読書を通じて子どもたちの健やかな成長を支えたいと願い取り組みました。この事業は東近江市子ども読書活動推進委員会が母体となった実行委員会で行いました。

東近江市子ども読書活動推進委員会は子どもの育ちにかかわる関係各課や関連団体のメンバーで構成されています。その相互のつながりがさらに深まり、ネットワークが広がるような事業の展開を目指しました。事業は「子ども読書の環境整備推進事業」と「子ども読書活動実践事業」の大きく二つに分かれます。

■ 子ども読書の環境整備推進事業

子ども読書の環境整備推進事業として学校図書館活用講座を開催しました。

≪学校図書館活用講座 講師:藤田 利江 氏(荒川区学校図書館支援センター)≫

小学校教諭・司書教諭として長く活動されてきた藤田利江さんに、学校の先生に向けて情報ファイルの作成とパスファインダーづくりについて講演と指導をいただきました。

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さらに翌日、子どもたちに向けて調べ学習の公開授業をしていただきました。  どちらも、学校での授業や活動にすぐ活かせる内容のため、先生方も熱心にメモをとりながら参加されていました。

保護者に向けては、PTA役員の方々と協力し子育て講演会を企画しました。

≪「笑って遊ぶ子育てのコツ」 講師:岩城 敏之 氏(育児研究家)≫

保護者のみなさまは時に笑いながら、自分自身の子育てをふりかえり、関心を深めつつ、楽しんで参加しておられました。

夏休みには保育園や幼稚園・小中学校の先生や保護者に向けて読書の楽しみ方、読書が子どもの育ちを支えていくことについて実践を通して学ぶ講座を開きました。

≪子どもの育ちと読書

  

①「絵本の楽しみ方について」 講師:加藤啓子 氏(児童文学研究家)

②「『読みあい』による子どもたちの仲間づくりについて」 講師:村中李衣 氏(児童心理学者)≫

こちらは東近江市教育研究所と共催で行いました。図書館と教育研究所は講座を開催するにあたって、協力関係をとっています。先生方に読書が教育の中で果たす役割や力を認識し、生かしてほしいと願ってのことです。夏休み中の開催ということもあり、多くの先生が参加されました。

そして、平成22年度地域ぐるみの子ども読書活動推進事業の集大成として行ったのが、国民読書年記念事業フォーラム「大きな家~タイマグラの森の子どもたち~」です。この取り組みにつきましてはのちほど、詳しくお話しします。

■ 子ども読書活動実践事業

子どもたちを対象とする「子ども読書活動実践事業」では、講師の方々に学校へ出かけていただいて、子どもたちに直接語りかけてもらいました。

≪聞く耳を育てるストーリーテリング体験 講師:栗村 節子 氏(ストリーテラー)≫

小学校低学年の児童に向けて栗村節子さんに語っていただいたストーリーテリング体験は、心が物語の世界へ旅立つ、とっておきの時間となりました。

≪小学生のためのオーサービジット

① 講師:杉山 亮  氏(児童文学作家)

② 講師:富安 陽子 氏(児童文学作家)≫

小学生のためのオーサービジットでは、子どもたちは、おはなしをワクワクと興奮して聞きながら、それぞれの作家の方に親近感を抱き、その作品への興味を高めていました。

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作家が来てくださった学校の学校図書館では学校司書が事前学習のために特設コーナーを設けました。事前に作品に親しむことで当日の興味が高まり、終わってからも長く杉山さんの本と富安さんの本が大人気で借り出されました。学校図書館だけでなく公共図書館の本もほとんどすべて貸出中となりました。

≪和歌山 静子「アジア絵本ライブラリー」

※絵本展示会≫は図書館を会場に行いました。 たくさんのアジア絵本に出会う機会となりました。

≪「物語の読みの力を育む授業」 講師:二瓶 弘行 氏(教育研究家)≫

自らも筑波大付属小学校で教鞭をとっておられる二瓶弘行さんが 小学校4年生対象の公開授業の後、教職員に向けて講演をしてくださいました。

事業の集大成として

平成22年度「地域ぐるみの子ども読書活動推進事業」は先にも申し上げました通り図書館だけでなく東近江市子ども読書活動推進委員会を母体として関係機関・関連団体・ボランティアのみなさんと協働して行いました。 事業を通じての願いは東近江市子ども読書活動推進計画のメインテーマでもある「人とのふれあい、自然とのふれあい、本とのふれあいで生きる力を育む」でした。その集大成としてフォーラムを開きました。

≪「国民読書年」記念事業フォーラム

「大きな家~タイマグラの森の子どもたち~」

①長編ドキュメンタリー映画上映 「大きな家~タイマグラの森の子どもたち~」

②パネルディスカッション

 澄川 嘉彦氏(「大きな家」監督)

 広瀬 恒子氏(親子読書地域文庫全国連絡会代表)

 西澤 久夫氏(東近江市長)≫

子どもが心身ともに健やかに成長していくために今、何が必要か、どのような環境を整備していくべきなのか、子どもにかかわる多方面の立場から考える場にしたいとの思いから企画したフォーラムでした。

映画は岩手県の早池峰山のふもと「タイマグラ」とよばれる開拓地で暮らす映像作家 澄川嘉彦さんの3人の子どもの成長記録。7年間の撮影を通して、東京から移り住み、環境の違いに泣いてばかりいた子どもが、動植物と出会い、ふれあい「私たち、大きな家(森)に住んでるんだね」と成長していく姿を描いています。

子どもたちは、山や木に話しかけ、野山を駆けめぐり、疑問が生じると図鑑や本を手に取って調べます。 ページを開き知識を深めることで、一つ一つの体験は手ごたえのある確かなものになっていきます。長女のあきえちゃんは、森にすむ鳥や動物を主人公に物語を紡ぎ、絵本にしました。自ら考え、想像する力が生きる力へとつながっていくその姿を通して、子どもの育ちとはいかにあるべきか、原点に立ち返って考える機会とし、映画上映の後、パネルディスカッションをおこないました。

当日は会場に満員に近い700人が来場され、パネルディスカッションではそれぞれの立場から子どもの育ちについての意見が交わされました。 会場からも積極的な質問や意見が出ました。

澄川監督の「都会であれ、田舎であれ、子どもが育つということ、それを大人がじいーっと待ち、見守ることが子育ての中で大切なことではないか」というお話に会場の参加者は興味深く耳を傾けていました。子どもに信頼を寄せて待つこと、子どもが自ら考え、想像し力をたくわえていく姿を大人はあせらず見守り待つこと、この「待つこと」の大切さが心に深く響きました。

親子読書地域文庫全国連絡会代表の広瀬恒子さんの「図書館を含め、地域ぐるみで子どもの生活環境にかかわっていくことが大切」とおっしゃった言葉がこのフォーラム象徴していたように思います。 また、この場に集ったみんながその思いを共有できたことがなにより今後につながると思います。

地域や学校・関係各課との連携は図書館にとってこれからも大きな課題です。そして、それは市内の各図書館で着実に広がっています。

絵本講座を例にとってみますと、以前は、図書館が企画して参加をよびかけるボランティア養成講座がほとんどでした。ところが、この頃は、保育園や幼稚園から保護者の方に向けて「絵本の話がしてほしい」や ファミリーサポートセンターの会員養成講座の一講座として、市民対象の公民館講座や 学校の先生の研修でなど、依頼を受けるようになりました。これは、全国的な子ども読書活動推進の流れの中で、「絵本や本と出会うことが子どもの成長の過程で大切なことだ」と認識されてきたことが関係していると思われますが、絵本や本のことなら、なんでも図書館に相談しようという関係性ができてきたからだとも感じています。

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さいごに 子ども読書活動推進は

大切なことは「本をたくさん読む子」を増やすことではなく、子どもたちが豊かな人間性を持って生きる力をたくわえながら成長していってくれることであり、本との出会いが、そういった子どもの育ちの支えとなると考えています。これからも、人とのふれあいで心を通わせ、自然の中で実体験を積み、そこに生きる動植物と共生しながら、読書の中で想像力を広げる、そういう環境の整備を目指していきたいと思っています。それは、図書館だけでできることではありません。子どもにかかわる多方面の立場からつながり、連携していくことが大事だと思います。

東近江市立図書館は、さらに地域や学校・行政の各課・関連団体と関係を深め、子ども読書活動を推進してまいります。