「児童書資料(作品類)選択基準」の紹介
ここでは、職員と住民の運動によってできた夕陽丘図書館児童室(1975(昭和50)年7月開室)で使われていた「児童書資料(作品類)選択基準」の紹介をおこなう。
この基準は1976(昭和51)年9月に制定され、1981(昭和56)年4月に改正されたもので、府立中央図書館の現在の選択基準の児童書部分は、これに基づき作成されたものである。
作られてから30年くらい経過しているため、AV資料など新しいメディア媒体には触れられていないが、児童書を選ぶ基本的な部分では変わっていないので、児童サービスに携わる人たちの参考になればと思い、この機会に“はらっぱ”に掲載することにした。
大阪府立図書館で、はじめて児童への直接サービスを開始した当時の関係者の熱意も、一緒に伝わればと思う。
児童書資料(作品類)選択基準
大阪府立夕陽丘図書館資料収集方針にもとづき、児童書資料選択基準を次のとおり定める。
T 児童室用資料
児童室での直接サービスのために、幼児、児童の知識や経験、そして感情を豊かにし得る資料を選択する。
1 絵本
留意事項
- 絵がストーリーを語っているか。
- 絵と文が一体化しているか。
- 絵およびストーリーが幼児、児童にふさわしいものであるか。
- 絵が見るものに訴えかけるものをもっているか。
- リズミカルでわかりやすいことばを用いているか。
- 絵、写真などの構図がはっきりしているか。
- 活字の大きさは読みやすいか。
2 昔話、民話、伝説
留意事項
- 原話の持ち味を生かして再話しているか。
- 原話の背景となっているそれぞれの国や民族の文化を伝えているか。
- 昔話は語り口など形式をふまえたものか。
3 童謡、詩
留意事項
- 創造性に冨み、児童の詩的感性に訴えるものか。
- 児童自身が、詩のことばを楽しみ、自らのことばで詩的世界を拡げられるものか。
4 歴史、地理、社会
留意事項
- 記述、写真、図表は、正確でその典拠は明示されているか。
- 歴史的事実に対してどのような観点で記述しているか。
- 年表、索引などに工夫がみられ、使いやすいか。
- 専門家によって書かれたものか。
- 郷土資料については、成人用図書の中から児童が読みとれるものを選択する。
5 伝記
留意事項
- 被伝者の生活の全面が、欠点をも含めて、人間的に描かれているか。
- 生涯史となっているか。
- 被伝者の行動等が、歴史的・社会的背景の中で描かれているか。
- 記述は正確か、また文献等による考証はされているか。
6 科学読物
留意事項
- 事実を正確にとらえているか。
- 結果だけでなく、その過程や考え方を重視しているか。
- 専門用語の解説はあるか。
- 科学者によって書かれたものか。
- 写真・図版・グラフ・表などは、明瞭な色彩・内容で児童の理解を助けるものであるか。
7 童話・児童文学
留意事項
- 創造性・文学性に富んだ作品で、読みやすい文体のものであるか。
- 作品中の人物は生き生きと描かれ、その行動は児童の共感を得るものであるか。
- 古典として、既に評価を受けているものについては、原文に忠実であるか。また原著についての解説が付されているか。
- 翻訳作品については、原文の意味を正確に伝え、日本語として原文の持ち味が損なわれることなく表現されているか。
8 記録・ルポルタージュ
留意事項
- 事実とその背景を正しくとらえているか。
- 文学性に富むものか。
9 趣味・実用書
留意事項
- 写真・図版は正確で、解説はわかりやすいか。
- 安全のための注意が払われているか。
- 児童書として出版されていない分野については、成人図書の中から児童が読みとれるものを選択する。
10 基本参考図書
留意事項
- 児童の学習に必要な項目が充分に用意されているか。また項目の編集は内容に適しているか。
- 目次・索引は工夫され使いやすいか。
- 記述・写真・図表は正確で、その典拠やデータなどが明示されているか。
- 改訂、増補が適切になされているか。
- 分野によっては、成人図書の中から児童が読み取れるものを選択する。
11 紙芝居
留意事項
- 幼児や児童が本を読むことの楽しさを集団で体験できる内容であるか。
- 線と色彩のはっきりした絵で、ドラマチックな展開がみられるか。
- その他は、絵本の留意事項に準ずる。
12 マンガ
留意事項
- マンガでしか味わえない独自の世界を表現しているか。
- 児童にユーモアや楽しさを与えるものであるか。
- 絵およびストーリーは、児童に適した内容か。
- ことばは、正しく用いられているか。
- 作品中の人物の行動は、児童の共感を得るものであるか。
- 特定の民族や国民、あるいは職業について偏った描き方をしていないか。
- 学習マンガについては、それぞれの主題について、類書と比較して優れているか。
U 研究用資料
1 研究用児童書
児童室の排架対象とならない中高生向きの図書、および前号T児童室用資料の選択基準からはずれるものであっても、一般に児童書と見なされ研究資料として必要と認められるものは、これを選択する。
2 全集、叢書類
研究資料として必要と認められる全集、叢書類(含個人全集)は、これを選択する。
3 復刻本
資料的価値が高く、その原本を所蔵していない場合は、これを選択する。
4 外国図書(含絵本)
資料的価値が高く、児童書研究に必要と認められるもの、特に各種絵本賞、児童文学賞受賞作品については選択に留意する。
5 マンガ
児童文化の研究資料として、必要と認められる範囲において、これを選択する。
6 その他
新聞・雑誌などのうち、児童文化に深く関わりがあり、研究上必要と認められるものは、これを選択する。
V 一般的留意事項
1 著者(訳者・編者・監修者)
- 過去に評価を受けた著作があるか。それらと比較しての評価はどうか。
- 新しい著者の場合、児童書に対する創作姿勢はどうか。
2 出版社
- 過去に児童書を出版しているか、またはそれらは評価されているか。
- 児童書出版に対する姿勢はどうか。
3 表現
- 児童の発達段階に適した表現か。
- 漢字、かな使いが適正になされているか。
4 形態
- 装丁が優れており、大きさも適当であるか。また内容にふさわしい装丁か。
- 造本は耐久性があるか。
- 印刷は鮮明で、活字の大きさ、行間の余白は適当であるか。
5 その他
- 選択にあたっては、児童書研究者の発表したブックリストを参考にするとともに、他の書評紙誌等の評価も参考にする。
- 新刊書のみに止まらず、児童書としての基本的図書が欠けることがないよう選択に留意する。