「そんなとき、図書館へ」
―「図書館サービス紹介パネル」作成について―

「図書館は本を借りるところ」、そう思っている人々は多いが、図書館でレファレンスや資料・複写物の取り寄せをおこなっていることはあまり知られていない。図書館の資源を有効活用するため、もっと多くの人に図書館の行っているさまざまなサービスを知ってもらい、そして気軽に図書館を活用してもらいたい。図書館では本を借りるだけという人や図書館にあまり興味を持っていないという人に、どうすれば図書館のさまざまなサービスを伝えられるのか。

この課題への一つの答えとして、大阪府立中央図書館では「レファレンスを中心としたサービス内容をまとめたパネルを作成し、展示・貸出すること」を考え、実行した。2005(平成17)年10月18日(火)から11月13日(日)まで、「図書館サービス紹介パネル」を1階展示コーナーで展示をおこない、よりたくさんの人々に見てもらうため、作成したパネルの貸出や電子データの配信をおこなった。ここでは、パネル作成の経緯、作業等を報告する。

1.パネル作成にかかる経緯

「図書館サービス紹介パネル」は、社会教育主事の先導で始まった『図書館サービス紹介プロジェクト』(1)の一環として、司書部6名、総務課3名(うち2名は社会教育主事)からなるプロジェクトチームによって作成された(2)。総務課の3名が加わったことで、プロジェクトに要する経費を比較的スムーズに確保することができたこと、司書が当たり前のように思っていたサービスが意外に知られていないとわかったこと、サービスをわかりやすく紹介するための適切な助言が得られたことなど、多くのメリットがあった。

2.パネル作りの実際

まずどのようなときに図書館を利用してほしいかをプロジェクトチームで具体的に考え、学び系(学習に関するレファレンス)、生活系(日常生活に関するレファレンス)、仕事系(仕事に関するレファレンス)の三本柱に分類した。そしてそれぞれを「知りたいとき・楽しみたいとき・困ったとき」にわけ、下記のような表を作成した。各パネルに誘導するマトリックス形式にすると、より一層興味を引くと考え、各分類にふさわしいレファレンス事例を考えた。

知りたいとき楽しみたいとき困ったとき
学び系パネル@へGO!パネルAへGO!パネルBへGO!
生活系パネルCへGO!パネルDへGO!パネルEへGO!
仕事系パネルFへGO!パネルGへGO!パネルHへGO!

このほか、表にあてはまらない人のために、「何もなくても図書館に来てください」という思いを込めて、「何もすることがないとき(パネルI)」というパネルを作成した。そこでは「ソファーに座ってくつろぐ」、「待ち合わせに図書館を使う」ことを盛り込んだ。ほかの図書館・公民館・学校などへも貸出しすることを考慮して、府立中央図書館の紹介パネルも作成した。

図書館を利用したことのない人にも分かるように、親しみやすい題材を用い、「こんなふうに図書館を使えるんだ!」という「驚き」と「求めている以上のサービス」が得られるレファレンス事例を考えた。「そんなとき、図書館へ!」というキーフレーズをどのパネルにも入れ、「図書館は役に立ちます」ということを強調した。そして、一般の人にとってなじみの薄いサービスもできる限り盛り込んだ。文字だけでの説明は分かりづらいので、イラストや写真を多用した。

では、具体的に2つのパネルを例にあげて、工夫した点を紹介する。

パネルA「ハリー・ポッターの国に行きたい!」では、人気のハリー・ポッターを題材にして、1つの作品から豊かな世界が広がることを示した。利用者のさまざまな要望に対して、司書が、日本語の本だけでなく原書もあること、さらには本だけでなくいろいろなメディアの資料(語学のCDや旅のビデオなど)も図書館にあることを紹介する。そして読書相談の例として、おすすめのファンタジー本も紹介する。さらにこのパネルでは、本の紹介だけではなく、「語学」・「民俗学・心理学」といった分類キーワードを使い、さまざまな資料をテーマごとに分類し整理する図書館の仕事も紹介した。

次のパネルH「社長に頼まれたとき!」は、実際にあったレファレンスをもとに作成した。司書が「会社規程の文例集」を紹介するこのパネルでは、そのような資料が図書館にあることが一般の人にとっては驚きになるのではないかと考え、資料の探し方、使い方を司書がアドバイスする内容とした。また、図書館ではさまざまな類書をそろえていることや、それらを比較できることも盛り込んだ。

このほか、誰もが関心のある医療情報についても図書館で調べることができるというパネルを作成した。このパネルでは、利用者は気軽に電話で問い合わせをして、本の取り置きを依頼する。また大学図書館を利用する際の紹介状の発行や、論文の複写依頼ができることも紹介した。

ほかのパネルでは、小学生の調べ学習を題材に類縁機関の紹介(レフェラルサービス)を盛り込んだり、自分の作品の販売の方法を調べに来館した利用者が、司書との会話からネットショップ開設に発展する事例などを題材とした。

3.自己評価

一度も図書館を訪れたことのない人々や「図書館って本を借りるだけのところ」と思っている人々に、「図書館がおこなっている(貸出以外の)多様なサービス」を紹介し理解してもらうには、どうすれば良いのかを考え、分かりやすい形にすることが難しかった。利用者の立場に立って考え、司書以外の職員とともにブレイン・ストーミングを何度もおこなった結果、非常にレベルの高いものが完成したと自負している。

各パネルのテーマについても難航した。マニアックでなく、親しみやすいテーマが必要であると考え、表形式で整理した。その結果、似かよらずバラエティに富んだテーマ設定ができたと思う。また、12枚ものパネルを作ったので、図書館でおこなっている多様なサービスを数多く盛り込むことができた。

4.アンケート結果

パネル展示期間中、アンケート用紙及び回収箱を設置し、17件の回答を得た。概ね好意的な回答だった。

全体的に「わかりやすく、おもしろい」といったものが多かったが、「意外なことでも図書館で解決できることがわかってよかった」「こんなことでも図書館でできるんだと感心した」など、図書館のサービスを知ることができたという内容が複数あった。また、ほかの図書館の職員らしき方からも、「ぜひデータを貸していただきたい」というものもあった。

また、意見として、「これを誰に見て欲しいのか? その(見るための)アクセス方法にもうひと工夫が必要。このパネルに導くための仕掛けを考えると良い」「パネルをパンフレットにしたものがあれば、家や学校で広めることができてよかったのでは?」というような、作成したパネル及びデータをどのように広めていくかについての課題を指摘したものも多かった。図書館以外の場所に設置すべきとの意見もあり、その具体的な展示場所の例として、府庁、市役所、駅などが挙げられた。

自由記入の方式をとったため回答数は少ないものの、この結果を見る限り、図書館の機能、サービスの紹介というわれわれの意図が伝えられるパネルが作成できたと思う。

5.終わりに

上記のように、パネル展示はおおむね好評であったが、「図書館でこんなサービスをしているなんて知らなかった」という感想も多く、今回のプロジェクトのねらいである「図書館サービスの紹介」について、今後もより広く、深く追求していきたいと考えている。

その一つの方法として、作成したパネルの「点字版」や「冊子版」を作成し配布するとともに、パネルの貸出及びデータ配信を展開している。パネル貸出・データ配信とは、例えば図書館や学校、社会教育施設などでの展示や学習で利用していただくために、パネルの現物を貸出す、あるいはパネルのデータを配信するというものである。申込方法などは以下の通り。

なお、申込書や貸出規定などについて、詳しくは、上記問合先に電話いただくか下記当館ホームページに記載があるので参照されたい。
【パネル貸出・パネルデータの配信について】
http://www.library.pref.osaka.jp/central/panerukasidasi0.html
【画像の実物】
http://www.library.pref.osaka.jp/central/panerukasidasi.html
【大阪府立図書館ホームページ】
http://www.library.pref.osaka.jp/

 パネルの利用を通じて、一人でも多くの方が「図書館サービスと図書館の魅力」について新たな発見をし、今まで以上に図書館を活用していただける契機となれば、幸いである。

※注

(1)『図書館サービス紹介プロジェクト』は、パネル作成のほかに、日頃から図書館をよく利用している人を対象とした「図書館活用講座」(2005(平成17)年10月〜11月に3回に分けて開催)からなっている。

(2)「府立中央図書館の社会教育主事については「図書館雑誌99(7)[2005.7] p.460〜462」を参照。

※本稿は、内田紘子、小笠原弘之、酒井宏治、高野如代、西尾恵一著「そんなとき、図書館へ!」(『みんなの図書館』.352 2006)を加筆修正した。