大阪府立中央図書館におけるYAスペースの現状と課題
 西尾 恵一

1.「YA」スペースの経過と現状

 現在、大阪府立中央図書館に「YA」と名のつくスペースが3か所ある。「YA文庫」コーナー、こども資料室内「YA」コーナー(以下YAコーナー)、そして、「YA展示」コーナーである。これらは全て1階にあるが、それぞれ離れた場所にある。

 YA文庫コーナーは小説読物室内にあり、集英社コバルト文庫、講談社X文庫、角川スニーカー文庫を配架している。このコーナーは中央図書館の開館当初から存在していたが、当初は特にコーナー名などは無かった。

 こども資料室内のYAコーナーは2001(平成13)年に設置された。このコーナーの設置により、当館のYAサービスが実質的に始まったといえる。ただ、設置当初はYA向けの資料を新たに収集したわけではなく、当館所蔵の資料の中で比較的YAが興味を持つであろうと思われるものを集めて置いていた程度である。

 YA展示コーナーは2008(平成20)年2月に新たに貸出返却カウンター前に設置された。前記2コーナーは館内でも比較的奥まった所にあるため、知る人ぞ知るコーナーとなっていたので、多くの人に気づいてもらえる場所としてこのスペースが選ばれた。

 これら3コーナーの住み分けであるが、YA文庫コーナーは前記のとおりである。YAコーナーには、こども資料室所蔵分の資料だけでなく一般書も含めた当館所蔵資料の中から、YA世代が興味、関心を持ちそうなジャンルの資料やその世代向けに書かれた作品を、2010(平成22)年2月現在で893冊配架している。YA展示コーナーは、YAコーナーへの配架対象になる資料のうち、特に注目を集めている作品や、タイムリーな題材、関心を持たれているジャンルの資料を抽出して760冊配架している。

 ただし、どのコーナーにおいてもスペースに制約があるので、一度そのコーナーに配架したからといって固定せずに、新刊資料や新たに話題になった資料と、いわゆる「旬」を過ぎた資料とを随時差し替えていくようにしている。

また、両コーナーに共通して配慮しているのは、小説、エッセイ等の読物に偏ることなく、趣味や実用にも活用できる資料も意識して揃えるようにしている。下のグラフはYA展示コーナーの分類別蔵書構成であるが、NDC9門の文学を半分程度に抑えるように努めている。例えば3門(社会科学)や7門(芸術)が多いのは、生き方や将来について考えるきっかけになる本や、クラブや課外活動を行っている利用者を意識して、スポーツや音楽等の本を集めているためである。これは、現在の図書館利用者に加えて、これまではあまり図書館を活用していなかった人たちにも親しんでもらうことをコンセプトとしており、当館でYAサービスを行っていくうえでの基本的スタンスとなっている。

グラフ030-001

2.利用状況、資料の動き

 利用状況については統計を集計していないので、現場を観察した感覚的なものになるが、YA文庫コーナーはそれぞれのシリーズをYA世代の時に親しんだ読者が引き続き利用している場合が多い。そしてその中に現役のYA世代が加わってきているという印象である。

 YAコーナーが3コーナーの中で一番意図した年齢層に利用されていると思われる。こども資料室内に設置されているということもあり、大人の利用者があまりブラウジングすることもない。また、YA世代の中でも中学生および小学校高学年のいわゆるYA予備軍の利用が多く見受けられる。

 YA展示コーナーはロケーション的には一番いい場所にあるということもあり、資料の動きは一番多い。このコーナーについては、2008年11月よりおよそ3カ月に一度の割合で資料の動きを追っているが、配架冊数が377冊から760冊に増加しているものの、貸出割合はコンスタントに50%を超えている。

配架冊数と貸出割合の変遷
年月配架冊数貸出中冊数貸出割合
2008.1137722459%
2009.247425754%
2009.555230956%
2009.864140663%
2009.1172139955%
2010.276043858%

しかしそれ故にYA世代よりも一般の利用が多くなっている。当館がYA世代へのサービスに力を入れていることのPR効果が期待でき、また、幅広い人々に資料を触れてもらうためのよい場所になっているものの、肝心のYA世代へ資料を届けるという点では痛しかゆしの状況ともいえる。ただ、他室に比べるとYA世代の姿が多く見受けられるので、一定の効果は挙がっていると言えるだろう。

3.課題

 現状における一番大きな課題は、やはりスペースの集約化である。3か所に分散しているのは利用者にも不便を強いているところがあり望ましいことではない。特に、YA展示コーナーは、本格的なYAサービスコーナーを設置するまでの仮コーナーとしての運営であり、展示架等も貧弱なものとなっている。

 集約化するにあたっては、単に資料を集めるというだけではなく、YA世代の居場所を作るということを意識しなければならない。これまでの当館の利用者は、こども資料室を除き静寂を求める傾向が強く、館運営もそれに応じる方向で対応していた。しかし、そのことがYA世代にとっては逆に居づらい環境を作り出していたと言える。そのため、これまでの利用者との共存を図るためにも独立したスペースが求められる。

 次に、他の事業との効果的な連携をさらに進めていかなければならない。現在でもリーフレット「ヤング★アダルトYA!YA!YA!」と紹介した資料を共に展示したり、YA世代向け事業の「本のPOP広場」や「若者ダンスカーニバル」開催時に関連資料の展示を行っており、それなりの効果をあげているが、さらに何ができるかを一歩進めて考える時期に来ている。

 また、資料収集についてもYA世代向けの資料は当館の運営・収集方針にそぐわないものが多いとされ、積極的には収集されてこなかった。このことについても、本当にそうなのか、そのことでむしろ(将来も含めて)利用を狭めていることになっていないのか、というような基本的な認識の再検討から行う必要がある。その背景にはこれまでの運営方針の経過等により、市町村立図書館と比べるとYAサービスに対する認識および理解が低いと言わざるを得ない現況があり、職員の意識の変化も求められている。

 公立図書館はあらゆる人々に対してサービスを提供する責務がある以上、当館においても「取り残された」利用者層へのサービスとしてYAサービスに力を入れていかなければならない。