「司書になるには?セミナー+図書館活用術」の実施について

大阪府立中央図書館では、2005(平成17)年2月19日と3月5日に「来たれ、若者!大阪府立中央図書館“笑”劇場」と銘打って、図書館離れが進んでいる青少年を対象にしたイベントをおこなった。

吉本興業の若手芸人による漫才やマジシャンによるコメディマジックの公演と司書が選んだおすすめ本の展示を行うとともに、公演後参加者に呼びかけて「図書館探険ツアー」、「司書になるには?セミナー+図書館活用術」を実施した。

ここでは、実施までの経緯と「司書になるには?セミナー+図書館活用術」について紹介する。

1.背景

中央図書館のこども資料室では専任職員3名、嘱託職員1名が、児童サービスとして、貸出やレファレンス、年齢別おはなし会(乳幼児対象、幼児・小学生対象)や保育園児へのおはなし会、季節ごとのおたのしみ会、図書館探検ツアーなどを実施している。

一方で、ヤングアダルト(以下、「YA」とする)に対しては2001(平成13)年にこども資料室内にYAコーナーを設置し、本の紹介リスト「YA!YA!YA!」を発行しているものの、総合的な取り組みはおこなっていなかった。

中央図書館では、市町村立図書館での購入・収集が難しいと考えられる専門的資料や高価な資料、団体刊行物などの収集を重視している。このため一部のティーン向け文庫などを除き、YA向けの資料はあまり収集されていない。YAコーナーの資料も、児童文学が中心で多様性に欠けており、YAサービスそのものも「府立図書館として他に優先すべきサービスがある」として軽視される傾向があった。これらの影響もあってか、中央図書館ではYA層の利用は他の年代に比べて極めて少なくなっている(1)。 (注:2008年より1階こども資料室入口付近にYA展示コーナーを設置し、YA資料確保に努力している)

YA層と読書や図書館とをつなげていくための試みとして、2004(平成16)年1月に子どもゆめ基金事業を活用した読書フォーラムを中央図書館で実施し、YA向け図書ガイドの作成・配布や、たつみや章氏の講演会などをおこなった。しかし、イベントの参加者はYAの読書に関心を持つ教師や図書館員などが多く、肝心のYA層はあまり集まらなかった。そこで今回は、YAが関心を持つ「笑い」をテーマに設定した(2)

2.経緯

 中央図書館には社会教育主事が2名配置されており、古代史をテーマとした府民講座をはじめ、様々な生涯学習事業を展開している。

今回の「“笑”劇場」も社会教育主事らによる企画で、「司書になるには?セミナー+図書館活用術」も社会教育主事らから提案された。司書側では「司書になるには?セミナー」が公共図書館では珍しい取り組みであり、YA対象の新事業として位置付けられる点や、「図書館活用術」については以前から同様の企画があったが実現できていなかった点などから参画することとなり、年齢がYAに近い、若手司書が中心に担当した。

3.実施内容

3.1概要

実施日 2月19日(土)・3月5日(土)
実施時間 15時50分〜16時50分
(図書館探検ツアーと同時並行で実施)
実施場所 中央図書館2階 大会議室
実施内容 ・「司書になるには?セミナー」(約25分)
・「ミニおはなし会」(約5分)
・「図書館活用術」(約25分)
・質疑応答(約5分)
参加者数 2月19日:33名(73名)
3月5日:11名(41名)
(括弧内は図書館探検ツアー参加者)
      

3.2内容詳細

@「司書になるには?セミナー」

司書の仕事や職場の裏話などを紹介し、YAが職業や進路について考える際の参考にしてもらうことを目的として実施した。図書館の一般的な仕事や司書資格の概要・取得方法を解説し、図書館に就職するための方法を説明した。

A「ミニおはなし会」

司書による仕事の一端を紹介するため、大型絵本を用いた読み聞かせをおこなった(3)

B「図書館活用術」

レファレンスサービスの宣伝と、図書館の有効な活用法を伝えることを目的に実施した。レァレンスサービスの概要について説明し、実際に中央図書館で受けた事例を紹介し、レファレンスの実演を行った。実演では、2人の職員が司書役と利用者役とに分かれ、実際のレファレンスを再現した。OPACをスクリーンに表示して蔵書検索を行ったほか、書庫資料の出納や複写申込なども盛り込み、参加者に図書館の利用の仕方が伝わるよう工夫した。

4.アンケート結果

 両日ともにアンケートを実施し、参加44名のうち29名(男9、女20)から回答を得た。参加者の年代を見ると、10代が10名で最も多く、以下30代の6名、20代の5名と続く。30代以上が10名と、予想以上に若年以外の参加があった。

参加目的については、「司書のなりかた」が約55%、「図書館の活用法」が約35%と、「司書のなりかた」に興味を持って参加した人が多かった。

年代別に見ると、10代の約8割は司書の仕事内容に関心を示していた。20代では全員が「司書のなりかた」を聞きたいと回答しており、求人の有無や情報収集の方法など、司書になるための具体的な方法を求めていた。30代以上でも「司書のなりかた」を聞きたいとの回答が多かったが、なかには教員もおり、「図書館ではどんなことをしてくれるのか」や「図書館と学校の協動」に関心があった。

「はじめての人にもわかりやすい説明で、司書になろうと強く感じた」(10代と20代に類似の意見多数あり)、「もっと図書館を利用したいと思った」(10代高校生男性)、「普段司書の話を聞く機会がなかったのでとてもよかった」(20代大学生女性)、「レファレンスの実演が面白かった」(全ての年代で類似の意見あり)、「図書館活動のための努力をしていることが分かった」(50代男性)と各年代から好意的な感想が多く出た。

その一方で、「(図書館活用術)中級編やテーマ別活用術を企画しても面白いのでは」(30代教員女性)、「(利用者)本人に本を探す楽しさを知らせることも大切」(年齢不明女性)などの内容に関する意見や、「図書館探検ツアーにも参加したかった」・「参加を事前応募制にして欲しい」(年齢不明女性)といった運営方法に関する意見も出された。

5.課題と展望

5.1実施内容について

時間の都合上「図書館探検ツアー」と同時並行で「司書になるには?セミナー」を開催せざるを得ず、参加者が分散してしまい、両方に参加したかったとの感想もみられた。司書の仕事を紹介する「司書になるには?セミナー」と、司書の職場を紹介する「図書館探検ツアー」は関係が深いと考えられるため、この2つはセットで実施した方がより効果的だった。

5.2社会教育主事との連携について

これまで、社会教育主事と司書との間では、資料展示などで協力することはあったものの、連携は不充分であった。しかし今回は、YAを図書館に呼び込むという目的のもとで互いに協力することができた。教員としての経験も豊富な社会教育主事との連携は、YAサービスを展開するうえで有益である。

5.3YAサービスについて

今回の取り組みを通じて、やり方次第ではYAを図書館に引き付けることができると実感した。しかし、彼らが一度図書館を訪れたとしても、そこに魅力を感じなければまた去っていく。彼らの図書館利用を定着させるために、YAサービスの充実を図っていきたい。

※注

(1)2003(平成15)年の有効登録者数(116,614人)に占めるYA層の割合は、13〜15歳が2.2%、16〜18歳が2.7%となっている。(大阪府立中央図書館 要覧2004)

(2)2月19日はロザン、りあるキッズ、アジアン、ヘッドライトの4組が、3月5日は松旭斎小天正が出演した。参加者数は19日が346名、5日が176名と盛況であった。

(3)2月19日は『しりとりのだいすきなおうさま』(中村翔子作,はたこうしろう絵)を、3月5日『はらぺこあおむし』(エリック・カール作,もりひさし訳)を使用した。

※本稿は、日置将之、内田紘子、小笠原弘之、西尾恵一著「ヤングアダルトを図書館に呼び込め!!若き司書たちのチャレンジ −「司書になるには?セミナー+図書館活用術」の実施について−」(『図書館雑誌』No.980 2005)を加筆修正した。