YAなう。
 同志社女子大学 村木美紀

<ヤングアダルト発見!>

                      

 ツイート風のタイトルにしてみました。YAとはヤングアダルトの略称です。このヤングアダルト,明確な定義は日本には存在しないものの,年齢でいうと「12−18歳」の「中学生・高校生」であるとか,「ティーンエイジャー」を想定していることが多いです1)

 1970年代には『こども発見』なる書籍も出版されています。ではヤングアダルトはいつ発見されたのでしょうか?ここで詳しく歴史を振り返ることはしませんが,日本図書館協会による全国悉皆調査やヤングアダルト出版会の活動を通じて認識されていったことが確認できます。それに加速をつけたのは,「公立図書館の設置及び望ましい基準」(2001年)や『これからの図書館像』(2006年)において「ヤングアダルト」が明記されたことによるのではないでしょうか。「子どもの読書活動の推進に関する法律」(2001)ではヤングアダルトという言葉は登場しませんが,「子ども」を「おおむね18歳まで」としていてヤングアダルトを含むこととなっており,公立図書館においてもサービス対象として意識することとなりました。

これまで,そういうターゲットはいるとしながらも明確な位置付けがされてこなかった館もあります。「公立図書館なのだから全ての対象にサービスをしている訳で,特にヤングアダルトを排除していないからサービスをやっている」というのはその典型的な意見ですが,対象別サービスとは本来その対象を意識して「配慮」したサービスや取組みが行われていているべきです。日本では年齢で対象を分けたサービスというのは児童と一般(成人)の2本柱が多く,そういった館では中学生までを児童,高校生以上を一般としてサービスをしています。「児童サービスとして中学生までを対象としているのでヤングアダルトサービスを実施している」という認識の館もあります。小・中学校との連携を行っているのでヤングアダルトサービスを実施しているという館もあるのです。つまりヤングアダルトは他の年代に埋もれるか,「学校」としてのサービス対象として捉えられてきたことが指摘できます。

<アンケートからみたヤングアダルトサービス>

ここでは2002年の全国悉皆調査を取り上げます2)。数値情報はそれぞれご確認いただくとして,ここでは別の観点から見ていきたいと思います。

まず,サービスの実施についてですが,何をもってサービスをしていると判断するかわからないという意見があることです。「コーナーを作っているだけなのでサービスをしているとは言えない」,「専用の棚を設けているのでサービスをしている」,「当館では特にサービスをしていないと考えていたけれど,アンケート項目に当てはまるところがあるからやっているのかもしれない」など,この段階で相当のユレがあります。2002年の悉皆調査以降,2004,2006,2008年の隔年で『日本の図書館』の「公共図書館調査」の中にヤングアダルトサービスに関する設問が設けられていますがサービスの実施状況を経年で見るだけでも,サービスの実施・未実施がころころと変わる図書館もあり,アンケート回答者によって回答が違う可能性も否めません。

さらに注目するのは専用のコーナーです。コーナー名には「マンガ」や「文庫」という名称も見受けられます。だとしたら資料の1ジャンルの棚をもってコーナーとしていることになります。ヤングアダルトが求める必要な資料情報はマンガや文庫だけとは限らないのにおかしな話です。このあたり,ヤングアダルトサービスがどのように行われるべきかが充分考えられていないと言えます。また,コーナーを作ることがヤングアダルトサービスだと思っているところがありますが,コーナーの設置はヤングアダルトサービスを行う手段のひとつであって,そこがゴールではないことをしっかりと認識してもらいたいところです。

そもそも直近の全国悉皆調査が2002年と,現状を把握し経年変化を見るには間があき過ぎているのも問題です。せめて『日本の図書館』での調査が毎年の定着したものになり,全国悉皆調査も定期的に実施されるよう期待したいです。それだけに今回大阪府下で調査が実施されたのはサービスの現状を知るのに有効ですし,ぜひ継続して行ってもらいたいものです。

<ヤングアダルトが図書館を救う!?>

では,ヤングアダルトとはどういった対象なのでしょうか?図書館界においてはやっかいもの扱いされてきた層です。席貸し問題をはじめ,集団になると騒ぐ,飲食禁止やケータイ禁止等のルールが守れないといった声が挙げられ,思春期で付き合い方が難しいとか,興味関心が把握しづらいというのも少なくありません。

ですが,ヤングアダルトというのは以下のような特徴も併せ持っています。

 

ヤングアダルトは仲間を大切にし,好奇心が旺盛で流行に敏感です3)。彼/彼女らによるブームも少なくありません。また情報過多の今日において多くのメディアを上手く駆使して情報収集することもできます。ガジェット−本稿ではケータイ・ポータブルゲーム機(DSやPSPなど)・ipod・ウォークマンなどを指します−も好きですし,器用に使いこなすことができます。ケータイ小説をはじめ昨今話題の電子書籍の展開やSNSなどのコミュニティーサイトもまた然りです。ギャル文字・絵文字・略語などユニークなものを作り出し,仲間内で流通させたりもしているのも特徴です。

 2002年に発表されたニュージャージ州のヤングアダルトサービスのガイドラインにはイベントとしてオンラインシンポジウムを実施することが盛り込まれています4)。2008年にはアメリカ図書館協会の呼びかけによって“National Gaming Day”が設定されました。図書館でゲームをする日で,ボードゲームからテレビゲームまで様々なゲームを年齢関係なく利用者が楽しんだそうで,ダンスダンスレボリューションをやったところもあるとか。利用者同士コミュニケーションをとることにも繋がっています。

 なるほど,ヤングアダルトへのサービスには「繋ぐ」というポイントがありそうです。 図書館と繋ぐ,資料と繋ぐ,友達など仲間と繋ぐなど,そう考えてみると,ヤングアダルト特有とも言えるサービスに「落書きノート」や「投書箱・掲示版」があり,確かにそこでも彼/彼女らは繋がっていました。今思うとオフラインのチャットやBBSのようなものです。こういったヤングアダルトの特徴を活かして,オンライン・オフラインバージョンのサービスを考えてみてはどうでしょうか。それをマニュアル化し,他の年代や他の対象に移植―低年齢にはさらなるリテラシー部分の充実であるとか,上の年代であれば情報機器類の操作を強調したものにするなど―できれば,図書館を活性化することもできるし,やっかいもの扱いされていたはずのヤングアダルトによって図書館が救われるという可能性が見出せます。来館/非来館を問わない図書館サービスの提供,コミュニケーションの取り方の選択,情報機器を含めた多様なメディアの活用など検討の余地がありそうです。

 ただし,情報リテラシーの充実があってこその話であって,学校教育のみならず図書館においてもその指導を意識しなければならないことを忘れてはなりません。

<府立図書館に望むこと>

 近年では都道府県立図書館でもヤングアダルトサービスを実施し,ブックリストを作成したり,イベントを行うなどして,そのことをアピールする館が出てきています。1999年という比較的早い時期には東京都が『児童・青少年に対して図書館は何ができるか?:社会問題への図書館の関わり方(提言)』を出し5),第一章において「青少年の特徴」や「青少年問題への対応」,第二章において「公共図書館におけるサービスのあり方」,第三章において「都立図書館への提言」として「青少年に対する直接サービス」に具体的に言及しています。

 大阪府立図書館はダンスカーニバル等のイベントで一定程度ヤングアダルトの認知に成功しているようですが,さらに以下を求めたいと思います。

 

ヤングアダルトサービスは新しいことばかりやらないといけないのではありません。時代の変化や流行を反映させることはあるにしても,従来からの資料提供やレファレンスといったサービスの充実も必要です。当たり前のことを当たり前に,だけれどもヤングアダルト風味に味付けをして行って欲しいのです。図書館にとっては懸案かもしれませんが宿題の支援や調べ学習のサポートもその範疇です。ヤングアダルトサービスを通じて,図書館は面白い,図書館は使える,これだったら図書館を使おう,図書館もなかなかヤルなと思わせることができるか,ネット検索をしたりイベント参加することによって気が付いたら図書館を使っていたというように垣根を取っ払っていくことができるかがこれからの取組みに掛っています。

ヤングアダルトへのサービスには「子どもの読書活動の推進に関する法律」や「文字・活字文化振興法」(2005)も大いに関係していますし,2010年の今年は国民読書年といったタイムリーなトピックも活用したいところです。国民読書年についてはヤングアダルト層を意識したかのような「コトバダイブしよう。」という宣伝活動が行われていることに興味をひかれます。


今回の『はらっぱ』では23号にして初のヤングアダルトサービス特集ということで,これひとつにも意味があると思います。特集を通じて新たなヤングアダルトサービスの歩みが大阪府立中央図書館の歴史に刻まれるというのは嬉しいことです。ヤングアダルトを発見し,かつサービスの意識が高まるきっかけになることを願ってやみません。

1) ALAやIFLAの定義ではヤングアダルトは「年齢で言うと12−18歳」,「自分ではもう子どもだと思っていないのにまわりからはまだ大人だと思われていない年代」と定義しています。日本には定義がないために悉皆調査の結果等を踏まえて「12−18歳」とされることが多くみられます。

2)日本図書館協会児童青少年委員会『公立図書館におけるヤングアダルト・サービス実態調査報告』日本図書館協会,大阪市立大学学術総合センター図書館情報学部門,2003,62p.

 日本図書館協会による全国悉皆調査は1982年,1992年,2002年の3回実施され,1999年にヤングアダルト出版会による調査が行われています。

一方で,2005年には『みんなの図書館』で,2009年には『図書館雑誌』で特集が組まれる等,ヤングアダルトサービスへの意識は高まっていると考えられます。

「特集 YAサービス:この5年間ほどを振り返る」『みんなの図書館』no.342,2005.10,p1−16.

「特集 YAサービス新世紀」『図書館雑誌』103(8),2009.8,p508−525.

3) 岩槻らの研究によると中学生の「読書の目的」の上位回答に「友達と同じ話ができるから」(28.3%)があり,読書ひとつとってもコミュニケーションツールとして捉えていることがわかります。さらに,「読書のきっかけ」に至っては「友達のすすめ」(45.7%),のほか「本屋で見かけて」(70.5%)「アニメや映画・テレビ番組で見て」(43.3%),「ベストセラー・話題の本だから」(38.0%)が上位回答であり,メディアミックスの影響を受けるなど,やはり好奇心が旺盛で多くのメディアを駆使していることも明らかになっています。

岩槻和也「子どもたちは本とどのようにつきあっているのか?:小・中学生の読書活動に関する調査から」『社会教育』2007年9月号(no.735),p20−24.

4) New Jersey State Library.Guidelines for Young Adult Services in Public Libraries of New Jersey,New Jersey,2002,40p.

 村木美紀「ネットワーク時代のヤングアダルト・サービス:米国ニュージャージー州のガイドラインの考察」『夙川学院短期大学研究紀要』no.31(2005),p19−33.

5) 第19期東京都立図書館協議会編『児童・青少年に対して図書館は何ができるか?:社会問題への図書館の関わり方(提言)』東京都立中央図書館管理部企画協力課,1999,28p.